あなたとわたしで紡ぐ愛
3、目撃
「翠、もうすぐ誕生日じゃん?何か欲しいものある?」
私の務める化粧品メーカーspRING(スプリング)は、都会の一等地に12階建ての自社ビル構えている。
その8階にある、一般開放もしているカフェテリアで、焼きたてのクロワッサンを頬張っていた私に向かいの席からそう問いかけたのは、広報宣伝部の同期、清水 沙織(しみず さおり)だ。
すらっとした長身にショートカットが良く似合う彼女は、美人で歯に衣着せぬ物言いが特徴のサバサバ系女子。親友と言っても過言ではない彼女にだけは、私の家庭の事情って奴を、不毛な恋心含めて全て話している。
「うーん、渓くんの側にずっといられる権利、とか?」
「………」
冗談っぽくへらりと言えば、BLTサンドにかぶりつこうとしていた沙織が大きな口を開けたまま固まってしまった。
「……え、ごめん、嘘嘘、冗談!」
「……あんた、今それはさすがの私も反応に困るわ」
「いたっ……!ははは……、ですよねぇ……」
眉根を寄せた彼女に容赦なく頬をつねられる。
あの日、沙織も一緒に見てしまったから。だから冗談と言いながらもそれが私の本音だということは、彼女にはとっくにお見通しだ。
つねられた頬をさすりなから、私は2週間程前のことを思い出していた。