あなたとわたしで紡ぐ愛
全面ガラス張りの煌びやかなそのお店は、横断歩道を渡らなくても店内の様子が見てとれる。
だから渓くんが店員さんから出してもらったらしい指輪を、佐和さんの手を取りはめているところがしっかりと見えてしまった。
どくどくと、急かすようなリズムで脈打つ心臓の落ち着け方がもはや分からない。
いくつかの指輪を付けては外し、付けては外しを繰り返し、真剣に選んでいる渓くんから目を逸らしたいのに逸らせない。
ーー渓くんは佐和さんと付き合っていて、もうすぐ結婚する……?
この前佐和さんが何か言いかけていたのは、このこと………?
いつの間にか青に変わっていた信号。渡る気配のない私にチラチラと胡乱(うろん)な視線を投げながら通り過ぎて行くたくさんの人たち。
やがて信号が点滅して、また赤へと変わる。
そうしてまた青に変わって、それでも動けずに人の波に飲み込まれていた私をそこから引っ張り出してくれたのが、たまたま通りかかった沙織だった。
沙織は渓くんに会ったことがある。だから私の視線の先に気がついて、何も言わずに飲みに付き合ってくれて。
そこで涙と一緒に全てを吐き出させてくれたからこそ、私は今、こうやって少しずつ心の準備が出来ているんだと思う。