あなたとわたしで紡ぐ愛
でも今年は、渓くんがルナアーラホテルの最上階にあるフレンチレストランを予約してくれているらしい。
東京の夜景が一望出来るというレストラン。
誕生日をそんな素敵な場所でお祝いしてもらえるなんて、とても嬉しいけれど、とても切ない。
最後の晩餐、という奴だろうか。
子供の頃から歩き慣れた道を、駅に向かって渓くんと歩く。
塀の上でくあ、とあくびをした猫を見て、"まるでさっきの渓くんみたいだ"と私が笑えば、"縁側でしょっちゅう丸まって寝てるお前の方が猫みたいだけどな"と渓くんも笑う。
渓くんを起こして一緒に朝ご飯を食べて一緒に家を出る。そして他愛のない話をしながら駅まで歩く。
こうして何年も渓くんと繰り返して来た何気ない日常のひとつひとつを、今私が目いっぱい噛み締めながらこの道を歩いているということを、渓くんは知らない。