オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
仕事をしていると、あっという間に1日は過ぎるのに、急に、オフになった私は、時間を持て余していた。

リビングの時計を見れば、まだ10時半だ。

時間があると、色々なことを考えてしまう。

マグカップに入れたコーヒーの水面を覗き込む。コーヒーに映る自身の揺れる様は、私の心と同じだ。揺れるばかりで定まらない。

春樹の優しさに甘えていいのか、冬馬をいつか本当の兄として見れるようになるのか、自分では確かな確信が持てないことばかりで、それなのに、一人になる勇気もない、弱い自分が、嫌になる。

春樹の手の内出血も気になる。

あれはドアで、ちょっと、ぶつけたものじゃない。何か強い衝撃で打ち付けたような……。
それこそ壁でも殴りつけたような、そんな痕に見えた。

スマホを開いて、冬馬に、連絡しようとして、やめる。春樹は、暫く冬馬と会わないでと話していた。今までそんなこと一度も言われたことはない。

春樹は、冬馬とは何もないと言ってたけど、二人で話したんじゃないだろうか?

もしそうなら、春樹と冬馬はどんな話をしたんだろうか。

あの春樹の怪我は、冬馬と関係ないのだろうか。

目の前に置かれた、結婚情報冊子を数ページ捲る。いくつか付箋がつけられていて、そのページを開けば、掲載されている、ウェディングドレスも式場も、私の好みのものばかりだった。

春樹が、私のことを考えながら、この付箋を貼ってくれたと思うと、胸は、張り裂けそうなほどに痛む。こんなに私を愛してくれる、春樹の愛情にいつか応えられるだろうか。

開かれたページの幸せそうな花嫁さんの姿に、ふと、冬馬の言葉が頭を掠める。

『バージンロードは、俺が手を引いてやるから』

勝手に(こぼ)れた涙は、幸せそうに笑う花嫁姿の女性の顔に、染み込んで丸く滲んだ。

ーーーーこんなんじゃダメだ。冬馬の為にも、こんな私を愛してくれる春樹の為にも、私は幸せにならなければならない。

二人が願ってくれるのは、こんな弱いダメな私の『幸せ』、ただ、それだけなのだから。

だから、ちゃんと話さないといけない。
そうじゃないと、前へ進めない。

私は涙を、拭いて立ち上がると、外出の準備を始めた。

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