オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
俺は、いつものようにパソコンに向かっていた。同じ会社の同じフロアで、働いてる俺たちは、日常的にエレベーターや、フロアの廊下で出くわすことも多い。

昨日の今日で、春樹に会った時、どんな顔をしていいのか、分からなかった俺は、春樹が、珍しく有給を取ったことに、少なからず安堵していた。

明香と何処かにいくのかも知れないし、俺と明香のことを消化するために、時間を作ったのかもしれないと、俺は思った。

ふと、窓の外を見れば、丁度雪が降り始めた。

真っ白な雪が、ふわり、ふわりと揺れながら、ゆっくりと落下していく。俺の明香への想いも初めは、純真な雪のような小さな想いから芽生えたのかもしれない。

それがいつからだろうか。

心に降り積もる中で、俺の中には、自分のものにしたいという欲という名の黒い雪で覆われていたのかもしれない。

決して手を伸ばしてはいけない、真ん中の星を堕とす程に。


ーーーーラインのメッセージが鳴る。相手は見なくてもわかる。

『みてみて、この指輪綺麗』 

一人で退屈なんだろう、ネットで婚約指輪を検索しては、気になる指輪の画像を何枚も俺に送りつけてくる。

『一個しか買わねーからな』 

すぐに返事が来る。

『悩むなぁ。やっぱり、今日の夜、お店に一緒に見に行ける?冬馬と行きたい』

思わず、ふっと笑った。

こんな俺に買ってもらう指輪を、真剣に選んで、楽しみにしてくれる芽衣を、大事にしてやりたい。心からそう思った。

『了解。仕事終わったら、車で迎えにいくから、ついでに飯も食いに行こうか』

やったぁ、とウサギが嬉しそうに跳ねるスタンプを、見ながら、俺はスマホを置いた。

スマホの待ち受けは、明香と最後に見たオリオン座が表示されている。

明香は、大丈夫だろうか。春樹のことだ、明香を泣かせるようなことは、決してしないだろうが……。

もう明香とは、一度もきちんと話ができないまま、今後会うことはないのかもしれない。
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