オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
コンコンとドアがノックされて、俺が返事する前にドアが開かれて、未央が部屋に入ってくる。
「返事する前に開けんなよ」
俺の顔を見るなり、未央が、自身の口元を指差しながら、ため息を吐いた。
「女遊びも大概にしたら?」
「何だよ?結婚なら、ちゃんとするから幸之助に言っといて」
「分かった……」
未央の表情があからさまに曇る。
「……?何だよ?お前らしくないな、何?」
「……ちょっと聞きたいことあって、春樹のことなんだけど……」
未央にしては珍しく、躊躇うような口調だ。
「……春樹なんだけど……家で頭痛するとか、言ってない?」
「頭痛?いや、週末も一緒に飯食ってたけど、そんな素振りなかったけど?」
「明香さんは?何か言ってなかった?」
「俺、家出たんだよ、今は、頭取のお嬢さんと隣同士で家借りて住んでるから」
未央は、考えこむような顔をしている。
「春樹、頭痛酷いのか?」
未央は首を振った。
「見かけたのは一度だけなんだけど、ただの頭痛に見えなかったから、少し心配で、だから今日、有給取ったのかなって」
ーーーーそれは違う。俺のせいだ。
「いや、有給は、別件だと思うよ。……頭痛の件は、今度聞いてみる」
春樹が、俺に会ってくれるかは、わからないが、未央の表情を見てると、俺も心配になった。
「……ありがと。じゃあまた」
未央は、それだけ、言うと、部屋から出て行った。
部屋の時計を見れば、12時だ。2階にある社員食堂に行こうと席を立ち上がり、ドアノブに手をかけた。
コンコン、ほぼ同時に扉がノックされる。夜まで待ちきれなかった芽衣だろう。
俺は、返事せずに、扉を引いた。
「芽衣、夜まで……」
そこまで言って俺は言葉が止まった。
「……明香」
俯きがちに佇む、明香の姿がそこにあった。