オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
『冬馬へ
ちゃんと泣かずに言えるか、伝えたい事を全て伝えられるか、分からなかったから手紙を書きました。

小さい頃から、冬馬を兄だなんて一度も思ったことなんてなかった。初めて二人でオリオン座を見た夜、冬馬が一人の女の子として、私を好きでいてくれたことが嬉しかった。初めてのキスは、冬馬が良かったから。

二度目に二人で見たオリオン座の夜の事、私は後悔してないよ。冬馬は私を想って、自分を、責めて後悔してるのかも知れないけれど、あの夜、私は幸せだったから。 

きっと、忘れるなんてできないと思う。
でもね、安心してね。私を大切にして、愛してくれる春樹と居ると、本当に心が安らいで、ほっとするの。弱くて泣き虫な私だけど、ちゃんと、幸せになるから、もう心配しないでね。

最後に、一度でいいから、冬馬に愛してると言いたかった。

芽衣さんとお幸せにね。いつも会えなくても
冬馬の幸せを願ってるよ。
 
追伸
ブルーのマフラーは、やっぱり捨てられない。初めて、お兄ちゃんが、プレゼントしてくれたマフラーだから。
              明香 』

暫く言葉が出なかった。何度も明香の文字を目でなぞっては、明香の声を思い出す。 

『愛してる、と言いたかった』

あの時、明香から、その言葉を聞いていたら、今頃は二人だけで、何処か遠くへ行っていたのかもしれない。

罪を互いに背負って、罪悪感を抱えながらも、それでも堕ちるところまで、堕ちていたかもしれない。

明香の唇に、初めて触れた夜も、明香の全てを抱きしめた夜も、全部が愛おしくて、きっと忘れるなんて俺も出来ないんだろう。

「俺も……一度も妹だなんて思ったこと、なかったよ……」

でも今日からは、心もちゃんと、兄妹として生きていかなければならない。

互いの幸せの為に。明香の笑顔と幸せを守る為に。

俺は手紙をデスクの1番上の引き出しに仕舞った。

「お兄ちゃんか……」 

窓の外を見れば、本格的に雪が降り出していた。明日は積もりそうだ。

明香から初めて呼ばれた、お兄ちゃん、の言葉に、俺の心も、降り積もる雪で息ができなくなりそうだった。

触れてしまえば、あっという間に溶けてなくなる雪のように、いっそ消えてしまえばいい。

狂おしいほどの明香への想いも、あのオリオン座の夜も。

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