オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「理恵子が亡くなってから、一度だけ、幸之助さんから連絡を頂きましてね、三人共、我が子として育てるから、何も心配いらないと。本当に感謝しかありません」
「幸之助は、俺達のことなんて、ほったらかしだった……」
冷たく言い放った俺に、山下は微笑んだ。
「冬馬君は、幸之助さんによく似ていますね。幸之助さんは、大切なことに限って言わずに口を閉ざしてしまう。……私が、こんなことを言うのは何ですが、冬馬君達を心から大切に想っているはずです。上手く伝えられないだけで……」
その言葉に、一瞬、芽衣との婚姻届を書いてもらった時のことを思い出す。
ーーーー冬馬、これでもお前のことを考えている。
そう言った時の幸之助の顔は、どことなくいつもと違って見えた。
「でも……アイツは、母さんを捨てた……だから母さんは、男にだらしなく……」
そこまで言って、俺は口を覆う。
ーーーー違う。幸之助から身を引いた、母さんは、明香を我が子として戸籍に入れれるよう、幸之助から、紹介された男と相談して、やりとりをしていたんだ。
母さんが連れていたと言われた、顔の違う男は、その時の相談相手だ。
山下が眉を下げて、穏やかに微笑んだ。
「……冬馬君の想像通りです。理恵子は、幸之助さんだけを愛していた。身を引いたのも……春樹君のお母様が理恵子と幸之助さんの関係に気づいて、精神的に不安定になられてね。事故で亡くなられたとか……春樹君には、謝罪をしました……理恵子の兄として……」
春樹は、どう思っただろうか。
ーーーー俺と明香が兄妹じゃないこと。
俺の母親のせいで、春樹の母親が、精神的に不安定になり、事故を起こして、独りぼっちの寂しい子供時代を過ごしていたこと。
「春樹は……何て……言ってましたか?」
明香が、少し震えた声で山下に訊ねた。
山下は、コーヒーを一口、口に含んでから、静かに言葉にした。
「自分は、幸せだと。冬馬と明香がいれば、何も要らないからと。……必ず明香は幸せにしますからと、頭を下げられてね……」
明香は、俺の掌を握りしめたまま、大きな黒い瞳からは、涙が一粒転がった。
「心から愛しています、大切にしますと、仰ってくれてね……こんな遺伝子学上での私にも、明香さんの父親として接してくださって、本当に、明香さんが、良い方と、それも、幸之助さんの御子息と結婚することに、ご縁を、感じて、心から安堵しておりました」
山下が、明香を見つめながら、頭を下げた。
「……何にもしてやれなくて、私達の勝手で、生まれを隠さなければならなくて、本当に……本当に申し訳ございませんでした」
「そんな……やめて、ください……」
明香は、小さな声でそういうと、少し躊躇いながらも山下に問いかけた。
「……山下さんは、………お、父さんは、私が生まれて嬉しかった?時々は……私を……想ってくれてた?」
山下は、暫く明香を見つめると、涙が溢れるのも構わず、穏やかに微笑んだ。
「……お父、さんと……呼んで貰える日が来るなんてね……有難う……。忘れるもんか、忘れた事など一日たりともなかった。……理恵子の具合が悪くなるまでは、時々会わせてもらっていたんだ……。最後に会ったのは、雪の降る日でね。理恵子を、お母さんと呼び、私に手を振りながら帰って行く姿が、忘れられなくて。……本当に……会いたかった……」
「……お父さんっ……」
明香が、俺から手を離すと、山下の震えた両手を包み込んだ。
「幸之助は、俺達のことなんて、ほったらかしだった……」
冷たく言い放った俺に、山下は微笑んだ。
「冬馬君は、幸之助さんによく似ていますね。幸之助さんは、大切なことに限って言わずに口を閉ざしてしまう。……私が、こんなことを言うのは何ですが、冬馬君達を心から大切に想っているはずです。上手く伝えられないだけで……」
その言葉に、一瞬、芽衣との婚姻届を書いてもらった時のことを思い出す。
ーーーー冬馬、これでもお前のことを考えている。
そう言った時の幸之助の顔は、どことなくいつもと違って見えた。
「でも……アイツは、母さんを捨てた……だから母さんは、男にだらしなく……」
そこまで言って、俺は口を覆う。
ーーーー違う。幸之助から身を引いた、母さんは、明香を我が子として戸籍に入れれるよう、幸之助から、紹介された男と相談して、やりとりをしていたんだ。
母さんが連れていたと言われた、顔の違う男は、その時の相談相手だ。
山下が眉を下げて、穏やかに微笑んだ。
「……冬馬君の想像通りです。理恵子は、幸之助さんだけを愛していた。身を引いたのも……春樹君のお母様が理恵子と幸之助さんの関係に気づいて、精神的に不安定になられてね。事故で亡くなられたとか……春樹君には、謝罪をしました……理恵子の兄として……」
春樹は、どう思っただろうか。
ーーーー俺と明香が兄妹じゃないこと。
俺の母親のせいで、春樹の母親が、精神的に不安定になり、事故を起こして、独りぼっちの寂しい子供時代を過ごしていたこと。
「春樹は……何て……言ってましたか?」
明香が、少し震えた声で山下に訊ねた。
山下は、コーヒーを一口、口に含んでから、静かに言葉にした。
「自分は、幸せだと。冬馬と明香がいれば、何も要らないからと。……必ず明香は幸せにしますからと、頭を下げられてね……」
明香は、俺の掌を握りしめたまま、大きな黒い瞳からは、涙が一粒転がった。
「心から愛しています、大切にしますと、仰ってくれてね……こんな遺伝子学上での私にも、明香さんの父親として接してくださって、本当に、明香さんが、良い方と、それも、幸之助さんの御子息と結婚することに、ご縁を、感じて、心から安堵しておりました」
山下が、明香を見つめながら、頭を下げた。
「……何にもしてやれなくて、私達の勝手で、生まれを隠さなければならなくて、本当に……本当に申し訳ございませんでした」
「そんな……やめて、ください……」
明香は、小さな声でそういうと、少し躊躇いながらも山下に問いかけた。
「……山下さんは、………お、父さんは、私が生まれて嬉しかった?時々は……私を……想ってくれてた?」
山下は、暫く明香を見つめると、涙が溢れるのも構わず、穏やかに微笑んだ。
「……お父、さんと……呼んで貰える日が来るなんてね……有難う……。忘れるもんか、忘れた事など一日たりともなかった。……理恵子の具合が悪くなるまでは、時々会わせてもらっていたんだ……。最後に会ったのは、雪の降る日でね。理恵子を、お母さんと呼び、私に手を振りながら帰って行く姿が、忘れられなくて。……本当に……会いたかった……」
「……お父さんっ……」
明香が、俺から手を離すと、山下の震えた両手を包み込んだ。