オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
私と冬馬はーーーー兄妹じゃない。
その事実に、我慢して締め付けていた、恋しい心は、鎖が外れて、冬馬だけを見つめて、冬馬だけを求めてしまいそうだ。
でも、もういまさら、私達に兄妹のほかに生きていく選択肢はあるんだろうか。
それは結局全てを捨てる事。二人して堕ちる事と何ら変わらない。
コンビニ袋に飲み物やパン、おにぎり、煙草を詰め込んだ袋を後部座席に置くと、冬馬が、雨粒を振り払いながら、運転席に乗り込んだ。
ふわりと、車内に漂う冬馬の香りに、もう手を伸ばしたくなる。
「はい」
冬馬から渡されたのは、ホットココアの缶だった。冬馬は、ブラックのコーヒーのプルタブを開ける。
「冬馬は……何でも分かっちゃうね」
よく冬馬はココアを入れてくれた。決まって私が眠れない時や不安な時に。
「……見てたから、ずっと明香を」
冬馬は、私を見ずにそれだけ答えた。
これからも私だけを見て、思わずいいかけた言葉を甘いココアで流し込む。
運転席の冬馬は、難しい顔をしてる。冬馬は、何を考えてるんだろう。
冬馬は、スマホの電源を入れると、ラインを開いた。
「芽衣……さん?」
「あぁ、アイツほっといたら、俺帰るまで、朝まで起きてるから、先に寝ててもらう」
私は、黙ってココアに口付けた。
「春樹にも俺から言っとく。迂回するから、帰りは朝になること」
冬馬は、ラインを送り終わると、雨粒が入らないように、窓をほんの少しだけ開けて、コーヒー片手に、煙草に火をつけた。
冬馬が、ようやく私の方を向いた。
「迂回……して帰るから」
冬馬は、その薄茶色の瞳を逸らさない。私に確認するように。
でもどこか迷っているように。
私と、同じことを考えていたのかもしれない。
私は、空になったココアの缶を両手で、きゅっと握りしめていた。
土砂降りの雨は、もう精一杯の虚勢も、嘘も、偽った心も、誰にも見られないように、心の中の恋しさを隠しておいた膜さえも、全部綺麗に洗い流していく。
「……帰さないで」