オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「ありがとうございましたー」
「先生さようなら」
「また来週お待ちしています」
にこりと笑った私に手を振りかえす生徒さん達が微笑ましい。
金曜の夜の部に通ってくれている生徒さんはどちらも美大に通う大学生だ。
すぐに階段下から、何やらキャッキャッと楽しげな声が聞こえてきた。これから行く夕食の相談だろうか。
「明香、終わった?」
後片付けをしながら振り返ると、冬馬が買い物袋をぶら下げて扉から顔を出していた。
「冬馬?…えと、冬馬が迎えに来てくれたの?」
「悪かったな、春樹じゃなくて」
春樹はいつも、ここまで上がってこない。
ビル入り口の隣の自販機の前でスマホ片手に仕事のメールを返しながら、待ってることがほとんどだ。
「あ、ありがとう」
「てゆうか、下で明香先生の恋人ですかーって聞かれたわ、大学生か?」
「あ、うん、美大の生徒さん。熱心で、此処にも通ってきてくれてるの」
「あっそ」
冬馬は何も言わない。