オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「春樹……でも、私は冬馬が」

「心は、冬馬でも構わない。……それでも側にいて。俺は、明香を愛してる……一生大切にするから……」

痛いほどに分かってる。どれほど春樹が愛してくれて、その言葉に嘘なんか一点も、混じっていないこと。

春樹の切ない声に、どうしようもなく心が押しつぶされそうになる。

私は、春樹から体を少しだけ離した。

「春樹……」

春樹が、私の頬にそっと触れる。その綺麗な、二重瞼と濁りのない優しい澄んだ心に、私は今からどれほど傷をつけるのだろう。

「結婚できない……」

言葉にした途端、私は、初めて春樹の涙を見た。

すぐに私の視界も春樹ごと、ぼやけて泡になる。

もう、いっそ、自分も泡になってしまえればいいのに。泡になって、春樹と冬馬の側にいられたら、ようやく涙は、枯れるのかもしれない。

「嫌だっ……離さない……」 

キツく抱きしめられた身体が、心が壊れそうに痛い。私は、震えた声の春樹の背中に、気がついたら両手を回していた。

ーーーー何が正解だったのだろう。何を、間違えたのだろうか。振り返っても、もう分からないほどに、遠くまで私達は来てしまっていたのかもしれない。戻り方も進み方も忘れてしまったまま。

春樹が体を離して、私の頬の涙を掬った時だった。


ーーーー「ッ……くっ……」

ふいに春樹が、こめかみを押さえるようにして、身体が私に乱暴に預けられる。
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