オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「春樹?春樹っ!」

小さく、唸るようにしながら、春樹は、苦しげに呼吸が浅くなっていく。

「どうしたの!春樹!春樹!」

「ごめ……薬……はっ……はぁっ……」

「え?薬?……春樹!」

春樹の顔色はあっという間に青白くなって、苦痛に顔を歪めたまま、ただ、(こら)えるように、私の背中を握りしめていた掌が、力なく解かれるのが分かった。


ーーーー「春樹っ!」




(もう12時か……)

俺は、芽衣の待つ、自宅扉の前で、少しだけ立ち止まった。

(上手く、話せるだろうか)

芽衣を、傷つけずに話せる話などないクセに、芽衣を泣かさないように、そんなことばかり考えてる自分は、本当に最低だと思う。

ーーーー散々、明香を抱いた癖に。

全てを捨てると誓って、明香だけを選んだのに。

俺は、鍵を差し込み、回すと、ゆっくりとドアノブを捻る。

想像していた、出迎えは、なく、部屋のなかは、しんと、静まり返っていた。

俺は、ジャケットを片手に、リビングの扉を開けた。

思わず、溜息が(こぼ)れた。

昨日、着てた洋服のまま、リビングのテーブルに半身を預けて眠る芽衣がいた。

「……風邪……ひくだろ……」

ずっと、俺を待ってたんだろう。遅くなっても、構わないなんて嘘だ。不安で仕方なくて、きっと、朝まで起きてたんだろう。

長い睫毛を揺らす、芽衣の頬にそっと触れる。

目尻からは、乾いた涙の痕がいくつも見えた。

途端に、息ができないほどに、心が苦しくなる。どんな時も、こんな俺なんかに、純真な瞳を一身にむけて、寂しいをただ、受け止めてくれた芽衣に、俺は、どれほど酷い仕打ちを、したのか分かってるから。

俺は、芽衣の頭を支えて、膝裏に腕を差し込むと、そのままま横抱きにして、ベッドの上へそっと下ろした。

毛布と布団を、重ねてかけてやる。さっき眠ったばかりなのかもしれない、芽衣は規則的な呼吸音を、繰り返している。

「泣かせないって言ったのに……ごめんな」
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