オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「怖かったな、大丈夫だから……」

冬馬が泣きじゃくる私の背中を、摩る。 

「春樹……病気……みたいなの……ひっく…なのに、ずっと……隠して……」

「さっき、俺も救急受付で簡単に聞いてきたから……春樹、検査中だろ?……まだ分かんないから……検査結果を待とう?」 

「私のせい……私が」

「それは違うから……明香のせいじゃないから……」 

冬馬が、宥めるように、私の後頭部の髪を撫でた。

その時、カツカツと響くピンヒールの音と、慌てた様子で近づいてくる革靴の音が聞こえてきて、冬馬と私は振り返った。

「冬馬っ、明香っ、……春樹は?」

よほど急いできてくれたのだろう。乱れた髪と、肩で息をする幸之助と、水色の封筒を抱えた、顔面蒼白の未央が立っていた。

「幸之助おじさん……」 

幸之助に会うのは、大学の卒業の時以来かもしれない。春樹と冬馬に連れられて、卒業の報告だけしに、会いに行ったことを思い出す。

「明香……春樹は?」

「ごめんなさいっ……ひっく…私が……」 

冬馬が立ち上がると、春樹は今、検査中のこと、私達も春樹の異変に気づいて居なかったこと等を簡単に話してくれた。

「これ……」 

難しい顔をした、未央が水色の封筒を私と冬馬に差し出した。幸之助はもう見たのだろう。眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。

冬馬が、封筒を受け取ると、ページを、めくっていく。3ページ目だった。

『要精密検査』の文字が並んでいる。

呼吸がとまるのが自分でも、分かった。

「明香?大丈夫か?」

冬馬の声が、さっきよりも随分遠くから、聞こえてくる。

春樹は、この検査結果をみてどう思っただろうか。そんな中、私と冬馬が兄妹じゃないと分かり、更に愛し合った事実をどう受け止めたのだろうか。

結婚できないと告げられて、涙を流した春樹の顔を、思い出して、私は、また声を上げて泣いた。
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