オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「泣くな……お腹の子に障るだろうが」
乱暴な言葉とは、反対に優しく指先で、私の涙を掬うと、冬馬はふっと笑った。
「冬馬?」
「明香がお母さんになるなんてな……きっと、いいお母さんになるだろうなって」
「……ひっく…冬馬……ごめん……ね」
まだ昨日の事なのに、二人で堕ちて一緒になろうと決めたのに。冬馬は全てを捨てて愛してくれたのに。
「俺のことはいいから……春樹とお腹の子のことだけ考えてたらいいから……」
ーーーー心はいつも追いついていかない。涙ばっかりが先に転がって、心の中の想いは言葉に出来ずに、いつまでも片隅で丸くなっている。
フロントガラスを見れば、小さな雪が舞い降りてくる。私の涙と一緒に。
「……泣き虫だけ遺伝しなきゃいいけどな」
冬馬は、私のお腹が、すっぽり隠れるようにコートを掛け直すと、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
見慣れた家の玄関扉を開けると、冬馬がすぐに私を横抱きにした。
私の履いてた、パンプスを器用に抱きかかえたまま、放り投げると、真っ直ぐソファーに向かっていく。
「冬馬っ、歩けるから」
「どうみても、フラフラだろうが」
そのまま、リビングのソファーにそっと私を下ろすと、冬馬がしゃがんでキッチン横の冷蔵庫を開けた。
私は冬馬のコートを胸までかけ直しながら、冬馬の後ろ姿を眺めた。
「……何だったら食えそ?」
「だ、大丈夫、春樹も明日には、とりあえず退院して帰ってくるし……」
「早く言え、俺も腹減ったし」
「……梅干しの入ったおかゆ……卵入りの」
冬馬がぷっと笑った。
「熱だしたら、いっつも作ってやったよな、了解」
冬馬はワイシャツを腕まで捲ると、コンロに火をつけた。
その後ろ姿を見ながら、ほっとしたのか瞼が重たくなった私は、瞳を閉じた。
ーーーー夢を見ていた。まだ小さかった頃の夢。
真っ白な雪の中を手を伸ばして、走ってる私を呼び止めて、転ばないように、私の手をぎゅっと春樹が握りしめてくれる。
そんな私と春樹の後ろから、不貞腐れながら、ついてくるのが冬馬だった。
ーーーーこの頃は分からなかったの。
なぜいつも、私と春樹の後ろからしか、冬馬が来ないのか。
本当は手を伸ばして、手を握りしめて欲しいのは、ずっと冬馬だった筈なのに。
多分、冬馬は、私が気づくずっとずっと前から、きっと私を愛してくれていたんだろう。
私はいつも気づくのが遅い。もう今更気づいても何処にも行けやしないのに。
もっと早くに手を伸ばしていたら、冬馬は私の手をずっと引いてくれてただろうか。
「冬馬……」
その名を呼んで、瞼をひらけば、涙と一緒に、薄茶色の瞳が、すぐに私を覗き込んだ。
「……あんな、寝ながら泣くな、マジで泣き虫だな」
冬馬は、意地悪を言いながらも、いつものように親指で私の涙を拭う。
乱暴な言葉とは、反対に優しく指先で、私の涙を掬うと、冬馬はふっと笑った。
「冬馬?」
「明香がお母さんになるなんてな……きっと、いいお母さんになるだろうなって」
「……ひっく…冬馬……ごめん……ね」
まだ昨日の事なのに、二人で堕ちて一緒になろうと決めたのに。冬馬は全てを捨てて愛してくれたのに。
「俺のことはいいから……春樹とお腹の子のことだけ考えてたらいいから……」
ーーーー心はいつも追いついていかない。涙ばっかりが先に転がって、心の中の想いは言葉に出来ずに、いつまでも片隅で丸くなっている。
フロントガラスを見れば、小さな雪が舞い降りてくる。私の涙と一緒に。
「……泣き虫だけ遺伝しなきゃいいけどな」
冬馬は、私のお腹が、すっぽり隠れるようにコートを掛け直すと、ゆっくりとアクセルを踏んだ。
見慣れた家の玄関扉を開けると、冬馬がすぐに私を横抱きにした。
私の履いてた、パンプスを器用に抱きかかえたまま、放り投げると、真っ直ぐソファーに向かっていく。
「冬馬っ、歩けるから」
「どうみても、フラフラだろうが」
そのまま、リビングのソファーにそっと私を下ろすと、冬馬がしゃがんでキッチン横の冷蔵庫を開けた。
私は冬馬のコートを胸までかけ直しながら、冬馬の後ろ姿を眺めた。
「……何だったら食えそ?」
「だ、大丈夫、春樹も明日には、とりあえず退院して帰ってくるし……」
「早く言え、俺も腹減ったし」
「……梅干しの入ったおかゆ……卵入りの」
冬馬がぷっと笑った。
「熱だしたら、いっつも作ってやったよな、了解」
冬馬はワイシャツを腕まで捲ると、コンロに火をつけた。
その後ろ姿を見ながら、ほっとしたのか瞼が重たくなった私は、瞳を閉じた。
ーーーー夢を見ていた。まだ小さかった頃の夢。
真っ白な雪の中を手を伸ばして、走ってる私を呼び止めて、転ばないように、私の手をぎゅっと春樹が握りしめてくれる。
そんな私と春樹の後ろから、不貞腐れながら、ついてくるのが冬馬だった。
ーーーーこの頃は分からなかったの。
なぜいつも、私と春樹の後ろからしか、冬馬が来ないのか。
本当は手を伸ばして、手を握りしめて欲しいのは、ずっと冬馬だった筈なのに。
多分、冬馬は、私が気づくずっとずっと前から、きっと私を愛してくれていたんだろう。
私はいつも気づくのが遅い。もう今更気づいても何処にも行けやしないのに。
もっと早くに手を伸ばしていたら、冬馬は私の手をずっと引いてくれてただろうか。
「冬馬……」
その名を呼んで、瞼をひらけば、涙と一緒に、薄茶色の瞳が、すぐに私を覗き込んだ。
「……あんな、寝ながら泣くな、マジで泣き虫だな」
冬馬は、意地悪を言いながらも、いつものように親指で私の涙を拭う。