オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「……おまえな、そそっかしいにも程があるだろ」

冬馬の鼓動が聞こえて、冬馬の甘い香りとタバコの匂いが鼻を掠める。

私は忘れかけていた記憶の端を勝手に手繰り寄せて、呼吸すら忘れていた。

「……あ、ごめん……」

辛うじて発した言葉は驚くほど、か細くて震えてた。

「大丈夫か?……一応聞くけど、体調悪いとかじゃないよな?」

冬馬に肩を支えられたまま、顔を覗き込まれる。

赤くなった顔を見られたくなくて、私はそっぽを向いた。

「ど、鈍臭い妹でごめんね」

妹という言葉を使った。

あえて、そうでも、しないと心臓が跳ねるのが治りそうもなかったから。


「ならいいけど。明香は昔からよく転ぶからな、春樹が心配で迎えに来るはずだな」

意地悪くそう笑うと冬馬は買い物袋と、画材の鞄、私のハンドバッグまでも抱えて歩き出した。

手ぶらの私は冬馬の後ろをついていく。

私は小さい時から、いつも冬馬に手を引かれて後ろを歩いていたから。冬馬を見つめながら。

決して口に出してはいけない言葉を胸に仕舞ったまま。

ーーーーいつも冬馬だけを見つめてた。

私の心の中の、一番大切な想いはあの日、あの鮮やかなブルーのマフラーと一緒に雪に溶けてしまったから。
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