オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「じゃあまた、あとで迎えにくるから」
「うん。ゆっくりしてきてね」
「パパー、かえってきたら、ワルモノね」
「まだ、おぼえてんのかよ、了解」
ニット帽を被った、小さな頭を撫でてやれば、流星が、嬉しそうに俺を見上げた。
「冬馬、雪降りそうだから、運転、気をつけてね」
「芽衣こそ、何かあったらすぐ電話しろよ」
芽衣は、大事そうに、お腹に手を当てて、にこりと笑うと、流星の手を引いて、松原工業本社へと足を向けた。
俺は、芽衣達がエントランスをくぐるのを見届けてから、アクセスを踏んだ。
「ちょうど4年ぶりか……」
芽衣の前では、禁煙してる俺は、窓を薄く開けると煙草に火をつけた。空からは、小さな粉雪がふわりと落ち始める。
ーーーーあれから、ロスに渡って春樹の手術は上手くいったと、明香から一度だけ連絡があった。少し麻痺の残る右手と右足のリハビリに数年かかるが、命に別状はないと聞いて心から安堵した。
そして、流星が生まれる、少し前に明香は無事女の子を出産した。
春樹が送ってくれた、生まれたばかりの子供を抱く明香が、本当に幸せそうで、俺は未だにその写真を見ることがある。明香の幸せをいつも願っているから。
「星香だったな」
名付けたのは、明香だと春樹が言ってた。俺は、流星が芽衣のお腹に居る時から、名前を決めていたから、同じ『星』を名前につけたことに、最後に二人でオリオンを眺めた夜を思い出した。
明香も同じことを考えて、名前をつけたのかもしれない。
俺は、星を見上げる度に、明香の幸せを願っていたから。