オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「違うよっ、冬馬」
「うるせぇな、俺は野菜から入れたいんだよ」
「やだ!お肉からだよ!」
「肉は最後、俺、煮詰まって固くなんの嫌なんだよ」
リビングの木製テーブルに置かれたコンロの上では、すき焼きの割下に、白菜とキノコが揺れている。
「あ!ちょっと、何でシラタキも入れちゃったの?野菜煮えてないじゃん」
「黙れ、今日の料理当番、俺だからな、俺の勝手だろ」
膨れた明香の両頬を摘んでやる。
「ぶっさいく」
真っ赤になった明香が俺の手を払いながら、菜箸を取ろうと必死に手を伸ばす。
「おっと、取られるかよ」
「冬馬のばか」
視線を鍋に戻した時だった、明香の小さな手のひらが俺の菜箸を持つ手に手を伸ばした。
僅かに触れた指先同士に、俺は一瞬動きが止まる。
鼓動がひとつ跳ねるのが分かった。明香の顔を見ずに、俺は菜箸を渡した。
「ほらよ」
「……あ、りがと」
急に静かになった部屋で、明香が黙って鍋を混ぜる。
「ただいま」
振り返れば春樹がリビングドアから長身を折り畳むようにして顔を出していた。