オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
春樹は、いつから見てただろうか、気づかなかった。
「随分騒がしかったけど?」
「明香の奴がすき焼きは肉からだって譲らねーんだよ」
明香より先に俺は口を開いた。
春樹は冷蔵庫にケーキを仕舞うと、スーツのジャケットを脱いだ。
「あ、春樹ジャケット、部屋持ってくよ」
にこりと笑うと明香が春樹のジャケットを受け取る。
「明香、指どうした?」
「あ、朝ちょっと切っただけ、全然平気」
大事そうにジャケットを抱えるとパタパタと二階へ駆け上がっていく。
春樹がビールを取り出して、俺にも差し出した。
「あんま明香いじめんなよ」
ゆるりと唇を持ち上げると喉を鳴らしてビールを、流し込んでいく。
「ただの兄妹喧嘩だし」
プルタブを開けると俺もビールを流し込む。
さっきの光景を、春樹が見ていたことを思うとやけに喉が渇いた。
「春樹、お待たせ」
パタパタと階段降りてくると、明香が春樹の隣に座った。
「主役がきたな」
春樹が明香の好きなカルピス缶チューハイをことりと置く。
「じゃあ乾杯しようか」
俺もビール缶を挙げた。
「明香、お誕生日おめでとう」
「お誕生日おめでと」
「ありがとう」
明香がはにかみながら嬉しそう笑う。
缶同士をぶつけると3人で一斉に飲み干した。
「全員一気飲みかよ」
「酒弱いんだから明香は一口で良かったのに」
「だって……嬉しかったから」
3人で顔を見合わせて笑う。
来年もこうやって、笑いながら3人で明香をお祝いするんだと俺は思ってた。