オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
テーブルのすき焼きも、明香がせがんで春樹に作ってもらったオムレツも、隣町で有名な苺のケーキも残らず皿から無くなったところで、春樹が立ち上がった。

明香がテーブルで、うつらうつらと船を漕ぎ始めたからだ。

「弱いくせに飲み過ぎだな」

春樹がテーブルから明香が転げ落ちないように、横抱きにすると、ダイニングテーブル前の皮のソファーにそっとおろした。

「冬馬、ジャケット借して」

俺は椅子の背もたれに掛けていたスーツのジャケットを春樹に手渡した。

春樹が明香にそっと掛けてやる。

「過保護すぎね?」

「お前でもやるだろ?明香に甘い」

「春樹程じゃねーよ」

「でも甘いって自覚はあるんだな」

黙った俺を見ながら、春樹がグラスに氷を入れてウイスキーを注ぐと、ハイボールにして俺に差し出した。 
  
「どうも」

「お前も酒強いよな」

春樹がピーナッツを雑に皿に入れてから、口に放り込んだ。

「ま、唯一春樹に勝てるかもな」

「負けないよ、冬馬にだけはね、一応兄貴なんで」

愉快そうに唇を持ち上げる。

「ま、俺は春樹には何も勝てたことないからな」  

煙草に火をつけながら、何気なく呟いた本音だった。    

「何で本気出さない?」 

「何が?」

「お前のこの前の企画書、クライアントからの評価も良かった。俺も企画書は出してたが、お前のが1番良かったよ。はっきり言って悔しかったね、俺は」 

春樹はグラスに、にんまりとしながら口をつけた。

「たまたまだろ」

「いや、お前は企画もだけど、経営センスもあるよ」

「ねぇよ」

「冬馬に遠慮してほしくないんだよ、俺はね」
春樹は俺の目を真っ直ぐに見つめた。

「愛人の子が何だよ、俺たちには、あんな親父だが同じ血が流れてる。お前は堂々としてればいいし、俺の自慢の弟だから」

「優秀な兄貴がいると弟は苦労すんだよ」

俺がグラスを飲み干すと、春樹がすぐさま追加のウイスキーを注いだ。
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