オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「おい、潰す気かよ」

「勝負してみる?」

「俺の負けだろ、どうせ」

両手を挙げて降参のポーズをとった俺に春樹がふと、真顔になった。

「俺は冬馬に負けないか、結構ヒヤヒヤしてんだけど?」

「は?」

「明香のこと、俺はお前にいつ負けるのか、結構必死なんだけどね」

春樹の言葉の意味が理解できなくて、すぐに言葉が出なかった。

「俺と明香は血の繋がりがないから、でもお前は違う。明香と半分、血が繋がってる。同じものが、体に流れてるって、おれは妬けるけどね。現に何でも明香の変化にお前はすぐ、気づくから」

俺は春樹と視線を合わせない様にグラスに手をかけた。カランとグラスの氷が鳴る。

「絆創膏いつから知ってた?」

「え?」

「俺は、さっきジャケット渡す時に気づいた」

「そんな重要なことかよ」

煙草を灰皿に置くと、俺もピーナッツを放り込む。

「てことは、朝から知ってたんだな。ま、そういうとこだよ、俺が明香のことで冬馬に負けそうだと思うのは」

春樹は穏やかに目を細めた。

「別に家族だからだろ。俺には……明香とお前しかいない」

春樹がふっと笑う。

「懐かしいな、お前と明香が初めて此処にきたときのこと」



俺が5歳、明香が3歳だった。

母親の葬式のあと、松原幸之助に連れられてこの家に来た。
出迎えたのが、俺と同じ位の子どもと家政婦で驚いた。

「どう思った?」  

一度聞いてみたかった。

春樹は、明香に対しては勿論、愛人の子である俺に対しても、本当の兄弟のように接してくれた。

だからこそ、俺は明香には、春樹と、幸せになって欲しい。俺と同じくらいに明香を愛してくれるから。

「嬉しかったよ、ずっと一人だったからな。親父が女にだらしないせいで、母さんは俺に過干渉でね。息がつまりそうだった。そんな母さんが事故で死んでから、子供ながらに、ほっとした。
最低だよな。……あと俺は、自分のことしか頭にない、自分勝手な親父が大嫌いだったが、いまは感謝したい位だよ。お前っていう弟と、明香が居てくれたら、俺は正直何も要らない」  

春樹が俺をじっとみながら、グラスを傾けた。

「明香を頼めんの、春樹だけだから」

俺は短くなった煙草を押し付けてから、ハイボールを飲み干した。  

「今度四年目の記念日なんだ。プロポーズしようと思ってる、この間、軽くだけ言ったんだけどね」

ほんの一緒だけ、呼吸が遅れた。

「喜ぶな」

春樹が立ち上がるとプレートの後片付けを始める。

「冬馬」
「なんだよ?」

春樹の視線の先のチェストの上には、天文サークルの同窓会の茶封筒が置いてある。

「明香と来週行ってきてやってくんない?」
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