オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「おー、冬馬久しぶりだな」
大学の天文サークルの同期だった田辺篤が、黒のSUVの運転席から降りると、明香の荷物をさっと持って手際よくトランクに入れていく。
「おい、篤、俺のは?」
「俺、レディーファーストなんで」
にっと笑った篤の左手には指輪が、光る。
「明香、乗って乗って」
助手席の窓から、セミロングの茶髪を揺らした奈々が明香を呼んだ。
「奈々ー!久しぶりだね!」
窓から手を合わせてハイタッチしてから、明香が嬉しそうに車に乗り込む。
「女子は相変わらずだな」
後部座席の扉を開けながら、篤に言うと、篤が笑った。
「いや、奈々めちゃくちゃ楽しみにしてたからな」
「明香もだよ、あんな、はしゃいでんの久しぶりに見たわ」
運転席に座ると篤がハンドルに手を掛けた。
「じゃあ、行きますか、俺らの青い春の思い出の地へ」
「どうでもいいから、早くだして」
篤とお揃いの指輪をはめた奈々が眉を寄せた。
「はいはい、すんません」
篤は学生の時から、こんな調子だ。
本当気が利きくし、優しい奴だ。そして、奈々の尻に学生の頃から引かれてる。
二人が結婚式を挙げたのは2年前だ、社会人になってすぐに同棲を開始して、そのままゴールインした。
「春樹、残念だったなー」
「ね、明香、春樹君とは結婚しないの?」
「お前な!いきなりかよっ」
篤がデカイ声を出した。
「だって、気になるんだもん」
奈々は目尻が少しだけ上がってる猫目だ。にっと三日月のようにに目を細めると、助手席から振り返る。
「えっ、奈々!……春樹とはまだそんな話、詳しくしたことないし、えっと、その」
「春樹君は、絶対奈々ちゃん以外考えられないって感じじゃん、詳しくしてないって言うことは話は出てんだ?もうすぐプロポーズされたりして」
「もー、奈々っ」
明香が困ったような顔をした。
「で、一応聞いてあげる、冬馬は?」
奈々が唇を持ち上げた。
「お前さ、春樹は君付けで、何で俺は学生の時から先輩なのに呼び捨てな訳?」
「冬馬は学生の時から女癖悪いし、口も悪いし、いいかなって」
「ふざけんなよ、そんな理由かよ」
奈々と篤が笑うと同時に、明香も横でケタケタと笑う。
「で?相変わらず女遊びしてんだ?」
「篤もうるせぇな、俺の勝手だろ」
「何で特定の彼女作らない訳?冬馬、顔だけはいいじゃん」
奈々が俺を指差した。
「顔だけってな、本人に普通言うかよ」
明香がクスッと笑う。
「冬馬が連れてる女は、皆んな綺麗な子ばっかなのに、3ヶ月か?もてばいいほうだよな、なんか問題あんのか?」
「あるから、別れんのよねー」
篤の言葉に奈々が乗っかった。
「お前ら夫婦でうるせぇよ」
「しっかし、明香ちゃん相変わらず可愛いな」
バックミラー越しに篤が笑えば、奈々から肘が篤の腹に入る。
「よそ見しないで!」
「はい……」
小さく呟く篤を見ながら、俺と明香は顔を見合わせて笑った。