オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
俺たちが通っていた大学から、少し離れた場所に標高七百メートルほどの丘があって、眼下には湖が広がっている。

丘の上に簡易な宿泊施設があり、夏休みは割と観光客も来て賑わう。 

夏は湖のほとりでバーベキューをして、水遊びをしてから、火照った体で丘に登り、俺たちは天体観測をした。懐かしい思い出だ。

出発してから三時間、篤が丘に併設されている小さな駐車場に車を停める。

「さっぶ」 

篤が車を降りると肩をすくめた。

「明香、あったかくして出てこいよ」 

「わかってる」

車の扉を閉める前に明香をみると、鮮やかなブルーのマフラーを鞄から取り出して巻いているのが見えた。

(ったく……)

俺は、小さく溜息がでた。

「篤、確かにな、やっぱこっちは標高が高い分気温低いな」

俺はダウンジャケットのチャックを上まで閉める。

「雪降りそうだな」

空気はツンとして、篤と喋るたびに白い吐息が混ざり合う。

「途中で飯食っといて正解だな、道混んでたからもう、19時すぎじゃん」

手元の時計を見ながら篤が伸びをした。

「お疲れさん」

俺が差し出したタバコを、そのまま咥えた篤に火をつけてやる。

「冬馬も相変わらず禁煙できないのな」

隣でニコチンを吸い込む俺に、篤がニッと笑う。

「止める理由もねぇしな」

「そうそう、恋愛と一緒、止められないわけよ」

「何だそれ」

俺は空を見上げた。今夜は雲が少ない。

天体観測には最も大切な条件だ。


ーーーー今夜は見れるだろう。あの日、明香とみたオリオン座を。きっと、明香と見る最後の星空だから。


「ねぇ、明香、星見るには本当良さそうな空だね」

「ほんとだ、奈々、星日和(ほしびより)になりそうだね」

楽しそうに談笑する明香と、奈々を横目に
篤が望遠鏡を担ぐと、トランクの荷物に手を伸ばした。

俺も望遠鏡を担いで、明香の分の荷物と一緒に抱えると、宿泊施設の扉を開けた。
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