オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「……ありがとう」
俺は明香の額を小突いた。
「帰ったら春樹にいいつけてやるからな。ガキのお守りはもうごめんだって」
唇を持ち上げた俺をみた明香が、安心したように笑った。
荷物を置くと、明香がベージュのダウンジャケットと俺の黒のダウンジャケットを並べてハンガーにかけた。
明香は、鮮やかなブルーのマフラーも外すと綺麗に畳んでから、二人掛けの小さなテーブルに腰掛けた。
俺もタバコ片手に明香の前に座った。
「室内禁煙だよ」
「あっそ」
タバコに手をかけかけて、ポケットに仕舞う。
途端に部屋に静寂が訪れる。
部屋に明香と二人きりで向かい合って座るなんていつぶりだろうか。
俺は極力避けていたし、それは明香も同じだと思う。
「てゆうかさ、まだ持ってたのかよ。それ」
俺は綺麗に畳まれてボストンバックの上に置かれてるマフラーに視線をやった。
いつもは撒いてない鮮やかなブルーのマフラー。春樹の前では明香が絶対に撒かないマフラー。
「……あ、うん」
「そんなの捨てて、春樹に新しいの買ってもらえばいいだろ?」
「だって、これは……」
そう、あの日、俺が明香にプレゼントしたマフラーだ。
冷え性で、よく風邪をひくクセに室内に入ると暑いからと薄着で、細く白い首筋が寒そうで。明香は、雪のように肌が白い。
「そんな安物いつまでも持ってんなよな、帰ったら捨てろ」
「やだ、だって初めて冬馬がプレゼントしてくれたんだもん」
明香が俺の目を見て、そう呟いた。
「そんなのやったのも忘れてたわ」
明香を泣かせるかも知れない、一瞬そう思ったが俺は嘘をついた。
「……嘘つき」
明香は小さな声でそれだけ言葉に出した。
「冬馬……」
「何だよ」
「どうして私にこの色を選んでくれたの?」
思わず明香の目をみて、俺はすぐに逸らした。気づいてたことに驚いたから。
明香には鮮やかなブルーがよく似合うと俺は思う。
なかなか渡せなくて、暫く鞄に入れっぱなしだったことを思い出す。