オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜

扉が閉まって、冬馬が出て行ってから、私はしばらくブルーのマフラーを手に取って見ていた。

私は物心ついた頃から、冬馬のことをお兄ちゃんと、呼んだことがない。

自分でも不思議だった。なぜだか冬馬って呼びたかった。

三歳で病死した母親と父親の顔も知らない私には兄の冬馬がいつも隣にいてくれた。

たった一人の血の繋がった家族だから、だから母であり父であり兄だから、名前で呼びたいんだ、そう思ってた。

でも、高校生になってから、私は自分の中の誰にも言えない想いに気づいた。

冬馬が綺麗な女の子を連れているのを見るたびに何故か寂しくて苦しくなったから。

初めは兄を取られたくない、そう思ってるだけだと思ってた。でもすぐに違うって気づいた。   


冬馬が笑うと嬉しくて、冬馬の側にいると幸せで、他の女の子の誰にも冬馬を取られたくなくて。


ーーーー私は冬馬が好きだった。それは、兄ではなく、一人の男の人として。

冬馬にあの日のことを、私はまだあの時の想いが忘れられないことを伝えたくて、このマフラーを持ってきた。


あの日言えなかった言葉……冬馬はきっと分かってる。  

決して言ってはいけない言葉。

それでも言葉に出したかった。

どうしたって届かない私の想い。

私は、春樹のことはもちろん大切に想っている。兄としても、恋人としても。


春樹は、本当に私を心から愛してくれて、大切にしてくれる。


それなのに……春樹から結婚の話が出てから、あの青いマフラーのことが、あの日冬馬と見たオリオン座が私は頭の片隅から離れなかった。

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