オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
あの日は、朝から雪が降っていて、とても寒い日だった。
春樹はレポートで遅くなるからと言って、講義が終わったら、私は冬馬とバスを乗り継いで、二人で帰る約束をしていた。
バス停までの雪道は、うっすらと雪が積もっていて、歩くたびに私と冬馬の足跡が交互についた。
「転ぶなよ」
冬馬はいつものように私の歩幅に合わせながら、私の腕を掴んだ。
雪用のブーツを履いてるとはいえ、気をつけないと、私は未だに転ぶ。
いつもは私が真ん中で、春樹と冬馬の腕を掴むのは私だから、冬馬から掴まれた腕に顔が赤くなりそうになる。
「今日マジで綺麗に見えそうなんだよな」
簡易の望遠鏡を片手に、冬馬がやけにご機嫌で私を見ながら、子供みたいに笑う。
「何?」
私に歩幅を合わせながら、冬馬が唇を持ち上げた。
「オリオン座」
「そうなの?」
冬馬は星の話をする時、切長の瞳を細めて子供みたいになる。
「一回お前連れて帰るから、俺見に行ってくるわ」
「私も見たい!」
すぐに答えた私に、冬馬がポケットからカイロを取り出して、私の頬にくっつけた。
頬にじんと、カイロの温もりが伝染していく。
そのまま冬馬が目をきゅっと細めた。
「明香、一昨日まで熱でてただろ?今夜は寒いからお前は留守番」
「やだ!春樹も居ないし、一人だし」
「ばか、子供かよ、すぐ帰るから」
「見たいよ……オリオン座」
冬馬はしばらく私を見ながら黙ってた。
「……薄着だな、そんなんで寒く無いのかよ?」
「大丈夫!雪国育ちだもん」
私は顔の前でピースサインを作ってみせた。
「で、手袋は?」
冬馬は私の真っ赤になって、感覚のない指先を手袋を嵌めた自身の両手で包んで、吐息をかけた。
冬馬の顔が真っ白になって、冬馬の吐息がじんわりと私の指先をあっためた。