オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「忘れちゃった」

「ばか」

冬馬は小さくため息を吐き出すと、自分の手袋を私に嵌めた。

「ほんと、どうしようもねぇな」

そう呟くと、持っていた鞄からぶっきらぼうに茶色の紙包を、私に差し出した。

「え?何?」

「女に買ったけど、もう要らないからお前にやる」

ぼいと、渡された茶色い紙袋から出てきたのは、鮮やかなブルーのマフラーだった。

「わぁ、……綺麗」

「お前いっつも寒そうにしてるから」

冬馬が、私からマフラーを取り上げると、私の首に巻いた。

「ありがとう」

すごく嬉しかった。冬馬が、私に似合うと思って選んでくれたんだと、すぐに分かったから。

冬馬は、よく綺麗な女の子を連れてたけど、プレゼント包装は、されてなかった。

このマフラーは、私に渡そうとずっと鞄に入れてたんだと思う。

いつから持ち歩いていたんだろうか。だってマフラーの入ってた、茶色の袋はくしゃくしゃだったから。  

私達はいつも三人一緒に帰るから。

春樹には、告白はされたものの、私は、迷いがあって返事を、先延ばしにしてる頃だった。

そんな私に、渡すタイミングがないまま、鞄にいれて冬馬が、持ち歩いてたんだと思うと、すごく嬉しかった。

「何だよ」

見上げた冬馬が、恥ずかしそうに、私から目を逸らしたのが可笑しくて、私は一人で笑った。

「みて、青空とおんなじ色だよ、綺麗だね」

冬馬は、少しだけ驚いたような顔をして笑った。

「宝物にする」
「すんな」

ぶっきらぼうに、それだけ言うと、冬馬は大きな掌で私の頭をくしゃっとと撫でた。


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