オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「は?」

「俺が大学の時から気づいてないと思ってた?俺はさ、割と勘の良いほうなんで……さっき、扉開けた時のお前らの雰囲気、兄妹じゃなかったぞ」

「兄妹だろ」

吐き捨てるように言った俺に目線を合わせると珍しく篤が真面目な顔をした。

篤は確信してる。誤魔化せない。そう思った。  

「……明香ちゃん、ちゃんと納得してんのかよ」

「明香は春樹の恋人だ。俺は春樹と幸せになって欲しい。心から願ってる。それが明香のためだから」

俺と明香は半分血が繋がってる兄妹だ。
互いの想いだけで済む話じゃない。

「……明香ちゃんはそれで本当に幸せか?」

「当たり前だろ。春樹ほど大事にしてくれる奴は居ない」


篤は短くなった煙草を灰皿に押し付けた。

「こっからは俺の独り言。黙って聞いとけよ。……男も女もな、結局1番好きな奴じゃなきゃダメなんだよ。……それが世間ではダメなことでも関係ねぇだろ。好きに言わせときゃいい。……お前らには親らしい親いねぇんだからさ、何処か知らないとこでさ、二人でっていうのもアリだと思うけどな」

何度かよぎったこともある。明香を、連れてどこか二人で行ってしまおうか。誰も知らないところへ明香と二人だけで。

でも、俺は、やっぱり明香に罪を背負わせてまで、俺と一緒に居てほしくない。

それに春樹は、明香を愛していて、本当に大切にしてくれている。

兄の春樹を裏切るようなことはできない、そんな気持ちもあった。

「お前ってやっぱ良い奴だな」

「真面目に言ってんの。お前みてると心配になるわ」  

篤は俺から視線を、そらすと、頭を掻いた。

「……ありがとな。気ラクになったわ。……誰ともこんな話したことないからさ」

篤が俺の顔を見ながら諦めたように呟いた。  

「……でもお前は結局、星は取りにはいかないんだろうな」

「……星は夜空に輝いてるから、見てて飽きないんだよ、幸せな気持ちになる」

篤がこちらに向かってやってきた、明香と奈々に手を上げた。

望遠鏡を担ぐと、俺の背中をぐいっと押した。


「おい、なんだよ、篤」

「オリオン座、明香ちゃんと、しっかり見ろよ」

俺は、篤の顔を見ながら、ふっと笑った。

ーーーーそうだな、きっと明香と二人でみる最後のオリオン座だから。 





「まだ、吸ってた!遅いよ、篤も冬馬も!」  

「悪りぃ悪りぃ、奈々怒んなよ、怒った顔も可愛いぞ」

頬を赤らめた奈々が、もうっと篤くんを突いた。

「で、冬馬、悪いけど、俺らちょっと二人だけでオリオン見てくるんで」 

「は?何で?」

冬馬が眉を顰めるのも気にせず、篤くんが目を細めると、奈々が口を尖らせた。

「えー、何でよ、明香と見たい」

「俺は、お前と二人で星見たいの、な?ちょっとだけ」

長身の篤くんが屈んで奈々に視線を合わせて両手をお願いのポーズにしている。

「……もう、ちょっとだけね」

少し恥ずかしそうにしながら、奈々が頷いた。
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