オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
ーーーーそう、3年前のあの日、オリオン座を眺めながら、私は冬馬に想いを伝えた。
春樹から告白されてから、自分の中の兄ではない、冬馬への気持ちが大きくなっていた私は、どうしても気持ちを、抑えきれなかったから。
『何で春樹の告白の返事しねぇの?』
冬馬が望遠鏡でオリオン座を眺めながら、隣で座って夜空を見上げる私にそう聞いた。
『……お兄ちゃんみたいに思ってたから、……その』
『春樹なら、俺は安心して明香任せられるけどな』
冬馬はレンズから顔を離すと、私の頭を撫でて口角をあげた。
『……冬馬は……私が他の男の人と付き合っても平気……なの?』
薄茶色の瞳は、すぐに大きく見開かれた。
『何言って……当たり前、だろ、妹なんだから』
『……私、私ね……冬馬のことお兄ちゃんって思ってない』
そこまで言ったら涙が出た。
分かってたことなのに。
冬馬が私のことただの妹だと思ってることが悲しかったから。
『明香?お前、それ……』
冬馬が、座り込んでた私の目の前に、しゃがみ込んだ。
『私……冬馬がね』
『それ以上言うな』
冬馬の薄茶色の瞳が、私の目を真っ直ぐに見つめた。
『もう苦しい……冬馬のこと、どうしてダメなの?』
『決まってんだろ、兄妹だからだよ』
苦しそうにそう答えた冬馬を、私は忘れられない。
あの時も限界だった。冬馬が、他の女の子を連れてるたびに苦しくて。私を妹じゃなくて、女の子として見て欲しくて。
『馬鹿だろ、俺もお前も』
冬馬が私よりも悲しそうな目をして、私を両腕でぎゅっと包み込んだ。
『俺が我慢してんのに、何でお前が言おうとするんだよ』
呟いた冬馬の吐息が、耳元から夜空に吸い込まれていく。
『言うな……一生』
私のことだけを、冬馬もずっと想ってくれてたことに涙がとまらなかった。
『……ひっく……冬馬……』
冬馬に貰ったばかりのブルーのマフラーは、涙が染み込んでいく。
『堕ちる必要ないんだよ』
冬馬は私をキツく抱きしめた。息が出来ないほどに強く。
そして、ゆっくりと重ねられた唇はすぐに離された。
『俺は、お前の幸せだけを願ってるから』
いつも、いつも、誰にも気づかれないように、私の幸せだけを願って、でもずっと愛していてくれた。
苦しかった。互いの想いだけで一緒には居られないことに。同じ血が流れてるだけで、決して触れられない。言葉にできない。
あの日、見たオリオン座はどこか泣いてるみたいだった。
アルテミスとオリオンの恋が儚く消えていったように。