オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「切ったのか?」
「……あ、ちょっと包丁の先があたっただけだから」
「誕生日なのに、気をつけろよ、そそっかしいな」
逸らさず見つめた俺の瞳に居心地が悪かったのか、明香は俺の瞳から手元の血の滲んだ指先に不自然に視線を移す。
「大したことない、離してよ」
「夜は俺と春樹で作ってやるから」
俺は明香の指先の絆創膏から滲んだ血液を、暫く眺めていた。俺と同じ血が流れてる。半分だけ。
「大体手は商売道具だろ、気をつけろよな」
するりと絆創膏に包まれた指先を撫でると俺は起き上がった。
半分だけ流れる同じ血液のせいだろうか。
明香の指先に触れただけで、少し鼓動が早くなりそうだ。
「おい、着替えんだけど?」
できるだけなんて事無い口調で俺はそう言うとTシャツを脱ぎ捨てた。
「わ、ちょっと、待ってよ、閉めるから!」
明香が慌ててドアをしめた。
俺は鏡の前で明香がアイロンを掛けてくれたシャツを羽織る。ふと視線を感じて、俺は振り向いてそれを眺めた。
不細工な雪だるまを囲んで取った幼い頃の写真だ。真ん中が明香、右隣に兄の春樹、左隣に俺。
共に暮らしてる兄の松原春樹と俺は父親が同じだ。
俺と明香の母親だった平山理恵子が春樹の父親である松原幸之助の愛人だったから。
自由奔放だった母の理恵子は、生涯独身だった。俺が覚えている限りでは、いつも顔の違う男を連れていた。
ーーーーだから妹の明香と俺の父親も違う。
母親が病死した後、松原幸之助が俺たちを迎えにきた。
地元で有名な松原工業を展開する、春樹の父親である、松原幸之助の庇護の元、俺達3人は
一つ屋根の下で、本当の兄妹のように育った。
普通の家庭の愛情は知らないが、俺たちは何でも話して、何でも分け合ってきた。俺たちの絆は強いと思う。
でもただ一つだけ、言葉に出せない事がある。
兄の春樹にも、妹の明香にも。
ーーーー俺は、妹の明香を愛している。