オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
扉が、閉められてから、私は急いで着替える。

持ってきたボストンバックに着ていたスウェットをつめようとして畳んでいると、少しだけ冬馬の匂いが鼻を掠めて、思わず手が止まった。

朧げだけれど、昨日の夜、眠ってしまった私を冬馬が、暫く、抱きしめてくれていたような気がして……私はスウェットを押し込むとブルーのマフラーと共に慌ててチャックをしめた。


ちゃんと忘れなきゃいけない。昨日の夜のことも、冬馬への想いも。

そういえば、昨日春樹とのラインが、途中になっていたことを思い出した。

『明香のすきなシュークリーム買ってかえるな。星の話しまた聞かせて。あったかくして寝ろよ』

春樹の優しさが、苦しくなる。こんな私をいつも大切にしてくれて、想ってくれて、それなのに、私は春樹だけを見ることができなくて。

『ありがとう。夕方には帰るね』

私は、返信ボタンを押してから、もう一件のメッセージに気づいた。


ーーーーメッセージの送り主は、冬馬。

冬馬から私に連絡がきた事なんてほとんどない。

ラインを、開くと写真が1枚だけ送られてきていた。

それは昨日一緒に見た、最後のオリオン座の写真。


画面の中の三つ星が仲良く並んで、夜空に輝くオリオン座を私は暫く眺めていた。

『あの三つ星って俺らみたいだよな』

『お前が幸せなら、俺は何もいらない』

見上げた冬馬がそう言って笑ってた顔を思い出す。

画面が滲んできて、私はそっとスマホを閉じた。

ーーーーちゃんと忘れよう。冬馬の為に。そして私は春樹と幸せにならなきゃいけない。こんな私を愛してくれる春樹の為にも。
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