オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「おかえり」
玄関扉を開けてすぐに春樹が出迎えてくれた。
「春樹、早かったんだね」
私の荷物を持つと、春樹がテーブルの上を指差した。
「飯もできてるよ」
シチューのいい匂いが、玄関まで漂っている。
「俺のは?」
冬馬が、いつもの口調でリビングに入っていく。
「ないことあったかよ、明香のお守りお疲れ様、怪我させてないみたいだな」
「春樹がうるせぇからな」
冬馬はそう言って、荷物を抱えて自室への階段を登っていく。
「美味しそう」
テーブルに並べられた夕食を、眺めた私を春樹が、後ろから抱きしめた。
「は、るき?」
荷物を置けばすぐ、冬馬もすぐに降りてくる。
私は、鼓動が早くなっていた。
「会いたかった、やっぱ俺も行けば良かったな。1日でこんなに会いたくなると思わなかったから」
「あ、あとで、オリオン座のこと話すね」
「うん、ベッドで聞かせて」
春樹の回された手を、解こうとした時だった。
「あれ?明香、手の甲どうした?」
ーーーー思わず心臓が飛び出そうになった。昨日、私が声を我慢しようとして、噛み付いた跡だ。噛み跡までとはわからないまでも、赤く傷になっていた。
「あ、……えっと」
言葉が出てこない。冬馬の熱と見つめられた薄茶色の瞳が、頭をよぎって、鼓動だけがさらに早くなる。
「あ、悪りぃ、望遠鏡片付ける時に、明香の手に当たって、赤くなってる」
冬馬が、昨日と同じスウェット姿でリビングに入ってくる。
「俺は怪我させるなって言ったんだけどね」
春樹が、ゆるりと私の体から手を離した。
「あ、違うの。手伝おうとして手が当たっただけだから、全然大した事ないの」
「そうそう、明香が悪いな、俺は悪くない」
冷蔵庫から、ビールを取り出して、冬馬はプルタブを開けた。
「あとで傷薬塗ろうな」
春樹は、私の手の甲をそっと撫でると、ふわりと笑った。
「過保護すぎだろ」
「大事な未来の奥さんなんでね」
「はいはい」
いつもの光景、いつもの会話なのに、私の心はいつもとは違ってた。
春樹の優しさに触れるたびに、私は、昨日の冬馬の温もりを思い出していた。