オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
お風呂に入って気づいた。

春樹が元々つけていた赤い痕は、いつもなら少し薄くなっててもいいのに、赤いままだ。

冬馬の付けた痕……。

私は、昨日のことをかき消すように、お風呂場を、後にした。

お風呂上がりは、春樹の部屋に行って眠るのが当たり前だったのに、髪を乾かし終わっても春樹の部屋に、なかなか行けない自分がいた。

春樹、多分今日、私のことを抱くつもりだから。

身体よりも、心が、春樹に抱かれることを、躊躇っているような気がして動けなかった。

「ふぅ……」 

勝手にため息が漏れ出た。 

「明香、入るよ」

ぼんやりしてて扉が半開きだったのに、気づかなかった。

春樹が、私の部屋の扉を後ろ手に閉めると、ベッドに座る私の横に並んだ。

「手、見せて」

春樹が手際良く、手の甲の傷を消毒すると絆創膏を貼った。 

「はい、終わり。で……どした?」

さっきのため息のことだ。

「あ、ちょっと疲れたなって」

春樹がツンとおでこを突いた。

「冬馬と何かあった?」

「え?」  

心臓が出そうになった。


「いや、別に俺の勘違いならいんだけど、ほんの少しだけ、夕食の時、違和感あったから」

「あ、……兄妹喧嘩みたいなもんかな、冬馬意地悪だから」

そっか、と笑うと春樹が、そのまま私を組み伏せた。春樹の黒い大きな瞳の中に、私が小さく映り込む。

「たまには明香の部屋もいいもんだな」

「どうして?」

「男は馬鹿だから、夜這いしてる気になるんだよ」

形の良い唇を引き上げながら、春樹の唇が、私に重ねられる。そのままスウェットを捲られる。

「春樹、電気消して」

「何で?たまにはいいじゃん」

私は、あの鎖骨についた赤い痕のことが、頭を掠めた。

「お願い。恥ずかしいから」

「分かった、消すよ」

春樹は、リモコンで電気を消すと、すぐにスウェットを首まで捲り上げて、胸の先端に口付けた。

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