オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
第3章 交錯する想い
俺は次の日、初めて目覚めましをかけると、春樹と明香よりも先に家をでた。

正直、あの夜のことを夢だと思えと明香に言った俺の方が、忘れられそうもなかったから。明香のぬくもりが、今も腕に残って離れない。

(重症だな……)

本気でさっさと家を出ないと、どうにかなりそうだ。

駅前で買った、アイスコーヒーを口に差し込みながら、松原工業本社の入り口にたどり着いた時だった。

「そこのアンタ」

声が聞こえたが俺はそのまま、通り過ぎる。

「ちょっと、無視しないで!」

「俺?誰だお前?」

俺の腕をぐいっと引っ張ると、強引に入り口横の木の影まで引っ張られる。

「アンタ此処の社員でしょ?ちょっと聞きたいことがあるの」

「は?」

女は、上品な花柄のワンピースを揺らしながら、少し垂れ目の二重瞼をこちらに向けると、声を顰めた。

「平山冬馬知ってる?」

「誰?」

俺は知らないふりをした、大体目の前の俺の名前を出した女は見たことない。

何で俺の名前を、知ってんだ?

「此処の社長、松原幸之助の愛人の息子!アンタ社員の、くせに知らない訳?」

大きな瞳を見開くと女が、俺の方を見上げた。

「あ、そんな奴もいたな、部署違うんで」

「でも見たことあるんだ、どんな人?」

女は真面目な顔して大きな瞳で俺を見ている。

「どんな人?ま、女にだらしない奴だな」

「やっぱそうなんだ……。ねぇ、背は高い?」

「ちっさかったかな、165くらいじゃね?」

「顔は?」

女の顔がどんどん曇っていく。
 
「お世辞にも整ってるとは言えねーな。目が小さくて、鼻が団子みたいで、口元には無精髭」

「どんな人がタイプ?」

「ま、清楚で綺麗な感じか?あんなんでも社長の愛人の子だからな、女は寄ってくんじゃね?」

女は驚いたり、睨んだり、忙しく表情を変えている。俺は内心可笑しくなった。

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