オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
俺の父親である、松原幸之助(まつばらこうのすけ)に会うのはいつぶりだろうか。

年に一度の株主総会の時位だが、会話はおろか俺は、目も合わせない。

愛人の子、俺はそんなレッテルを嫌でも貼られながらも、この会社に居続けているには理由がある。

ーーーーそれは、幸之助(アイツ)との唯一の約束だから。

中学を卒業する時だったと思う。俺は、幸之助に呼び出されて本社に行った。

幸之助から、提示された条件は一つだけ。

血縁関係のない明香に関して、今後の生活も今まで通り保証して、プライベート等一切の干渉はしない。

明香の自由を約束する代わりに、大学を卒業したら俺は、松原工業で働くことが幸之助の出した条件だった。

『俺は基本誰も信じてないんでね、血の繋がりがある人間しか』

長い脚を組み直しながら、俺とよく似た瞳で射抜くように俺を見た。

『父親に向ける目とは思えないな』

乾いた笑い声に、俺は拳を握りしめた。

『結局、春樹も冬馬も、嫌でも俺の血が流れてるんだ。どんなに抗ってもそれは変えられない。同類なんだよ。お前達の俺を見る目は、やがて俺の目と同じになる。血を分けるとはよくいったもんだな』

そう言って、タバコの煙を俺に向かって吐き出した、幸之助の顔は今でも忘れられない。

不貞の子として、幸之助の駒として、一生幸之助(アイツ)飼われるのが、あの家で暮らし続けることの条件だった。

幸之助に飼われるなんて、まっぴらごめんだと家を出ようと思ったが、中卒で働ける場所なんて無いに等しいし、明香を養えるほど稼げるとは思えなかった。

勿論、春樹にも相談して、春樹も幸之助にかなり食ってかかったが、俺たちは、まだ子供だったから。結局、幸之助の条件を、俺は飲んだ。
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