オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「ど、うしたの?」
「春樹迎えに来るまで時間ある?」
「うん、1時間位なら」
冬馬が、机に腰掛けたのをみて、私も席を一つ開けて座った。
「朝……早かったんだね」
「まあな、目覚ましでも意外と起きれるもんだな」
「居なかったから、びっくりしたけど……」
「さっき、家決めて来たから」
「え?」
ーーーー頭が真っ白になった。
「……何で、そんな急に?急がなくても」
冬馬は、ふっと笑った。
「そんな顔させると思ったから、先に言いに来た」
「いつ、引越しするの?」
「来週には出る、最低限の物だけ送る手筈もしてきたし。残ってるのは捨ててくれて構わないから」
「……そ、うなんだ」
「春樹にも今日の夕食の時言うから、適当に合わせろよ」
見つめてる机の木目が滲む。
冬馬の顔が見れない。あの夜からずっと、冬馬のことだけ考えてしまう。
「明香」
ポタンと落ちた涙を、冬馬が指先で掬う。
「泣くな。あとお前の涙拭いてやんのも今日で最後。分かった?」
「やだ……」
あの夜で全部終わりにしようと思った。
それなのに。
「……冬馬が居ないとダメなの」
冬馬は立ち上がって、私の顎を持ち上げると、真っ直ぐに視線を合わせた。薄茶の瞳を夕陽が照らす。
「俺な……はっきり言ってあの夜から、お前と暮らすのキツいわ」
「冬馬……私」
「ごめんな、明香に余計辛い思いさせた」
「違う、私が言ったから。……私が、冬馬との約束破ったから」
「……でも欲しいって思ったのは俺のせいだから。抑えが効かなかった。……明香のせいじゃない」
冬馬は寂しさを隠すように優しい瞳で笑った。
「……あと、もう一個。俺、結婚決まったから」
「何……?」
「だから、結婚すんの、俺も」
私、いまどんな顔してるんだろう。冬馬は目の前に居るのに、どんどん遠くへ行ってしまう。
「誰?」
「……明香の知らない人だよ、また紹介する」
さっきから全然思考がまとまらない。何にも言葉がまた浮かばない。冬馬が、結婚?
溢れた涙は、全部冬馬が救っていく。
「だから春樹と結婚して、明香には幸せになって欲しい」
冬馬が私の頬にそっと触れる。
「お前の幸せだけを、願ってるから」
無意識だった。私は立ち上がると冬馬の背中に両手を、まわしてた。
「……ひっく…冬馬……」
冬馬が私をキツく抱きしめた。
「……バージンロードは、俺が手を引いてやるからな。あとは、春樹が、一生お前を守ってくれる」
身体を離すと、冬馬は私の唇に、親指で触れた。あの夜のように。
「俺居なくても、大丈夫だから」
そんなことない。冬馬が居ないと苦しくて、涙が出るの。
私の頭をくしゃっと撫でると、私が言葉を発する前に、また夜にと言って、冬馬は扉を後にした。私は暫くその扉を眺めていた。
さっきまで抱きしめられていた温もりが、もう恋しくてたまらない。
冬馬に側にいて欲しくて。
冬馬の側に居たくて。