オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
振り返ると、松原春樹が長めの前髪から綺麗な二重瞼まぶたを細めた。
柔らかい黒髪は、すでに整えられていて、私が朝隣で起きたときの寝癖はない。
春樹はもう一人の私の兄、というより兄代わりであり、恋人。私と春樹には、勿論血のつながりはない。
「何考えてたの?」
昨日と同じ優しい安心する香り。
「目玉焼きのこと」
「嘘付きだな」
春樹がくしゃっと私の髪を撫でた。
心の中が透ける訳でもないのに思わずドキンとする。
「どうして?」
「明香ごまかすとき、ちょっとだけ鼻が動くから」
後ろから指先でツンと鼻を突かれる。
真っ赤だな、と春樹が笑った。
「それ冬馬の分?」
鼓動が早くなりながらも、フライ返し片手に両面焼きが好きな冬馬の目玉焼きをひっくり返した。
「冬馬、両面焼きだっけ?」
「あ、うん、両面のが好きみたい」
「冬馬のこと何でも知ってんだな」
冬馬のこと知ってるというフレーズに思わずドキンと胸が跳ねた。
「そりゃ、ずっと一緒に暮らしてる訳だし、ちゃんと春樹の好みだって知ってるよ」
目玉焼きのクツクツという音と春樹の吐息が耳にかかってくすぐったい。
「何?恥ずかしい?」
「朝だから」
春樹は私の後ろから抱きついたまま離さない。