オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「朝っぱらから、なんだ?」

上質な赤茶の革のチェアーに座る幸之助の前まで行くと、俺は見下ろしながら、睨みつけた。

「理由は分かってるよな?冬馬の事だよ」

「頭取のお嬢さんとも知り合いのようでね、意気投合してたよ、問題ない」

「よくそんな真似できるよな、冬馬はモノじゃない。親父のビジネスの駒にするのは許さない」

切長の瞳で、射抜くように俺をみる、と幸之助が唇を緩めた。

「何のために、今まで冬馬を育ててやったと思ってるんだ?俺の血を引いてるんだ、俺の役に立ってもらわないとな」

「俺ら3人のことなんて、ほったらかしだったくせに……」

「誰のお陰で、何不自由ない生活及び教育が、受けられたと思ってるんだ?」

「自分勝手なことばかりしておいて、よくそんなこと言えるな」

幸之助は、気だるそうに高層階からの景色を眺めながら、ゆるりと唇を持ち上げた。

「じゃあ、冬馬の婚約は破断にしてやろう。そのかわり、俺の可愛い娘同然の明香は、未央の兄が脳外科医だからね、そちらに嫁がせる。……どうする?」

俺の可愛い娘同然だと?俺は奥歯を噛み締めた。挙句、明香を嫁がせる?そんなことさせられる訳がない。

「明香は俺と結婚する。明香に手出しはさせない」

「はははっ。お前も結局一緒じゃないか、冬馬を犠牲にして自分は好きな女と一緒になるか」

こんなヤツと同じ血が流れてることに、心底嫌気がさす。

「最低だな。俺らを何だと思ってるんだよ」

「何度も言わせるな。俺の役に立てと言ってるんだ。今までの恩を、せいぜい返すんだな」 

「……俺も冬馬もアンタにうんざりしてる。とにかく……明香にだけは手出しはさせない。今週末にプロポーズする、来年には式を挙げるから」

幸之助は、タバコに火をつけると、白い煙を俺を見ながら吐き出した。

「その顔、母親そっくりだな。……春樹、明香との結婚は認めてやる。その代わり、この会社は、いずれお前に継いでもらう」

「断ったら?」

「話は逆戻りだな、仮に結婚しても明香をお前から取り上げる位、どうにでもなるという訳だよ」

俺は、両手を、きつく握りしめた。明香にだけはどんな事があっても出だしさせない。

「話はそれだけか?……来年は春樹も冬馬も結婚とはめでたいことばかりだな」

「話は終わりです」

俺は、低く呟くと、ネクタイを緩めながら社長室を、後にした。
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