オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
ーーーーあっという間に週末だ。

俺は明日、芽衣と同じマンションの一室に引っ越すことになっていた。

パソコンを叩く指先を止めると、俺はソファーに転がる女を睨んだ。

「お前な、なんで毎日此処にいんだよ」

ソファーに座り直しながら、芽衣が退屈そうに小さく欠伸した。

「学校いけよ」

「単位もう取れてるもん。行くのも面倒臭い」 

「ガキかよ。この間のスーツの男に送り迎えしてもらったらいいだけだろ」 

「橋本のこと?目立ちたくない。学校の友達には極力普通に接してほしいから」

少し寂しげにしたのは、頭取の娘というだけで、近づいて利用しようとする人間がいるからだろう。 

「明日からはお隣さんだね」

無邪気に笑った芽衣に、俺は一緒視線が止まった。

「言っとくけど、此処みたいに訪ねてくんなよ」

「いいじゃん。どうせガキに興味ないんでしょ」

「で?家出して少しは満足した?」

「ちゃんと、心配してくれるんだ?偽の婚約者でも」

俺がそっぽを向いたら、芽衣がクスッと笑った。

「何だよ」

「冬馬って悪いヤツじゃないなって思っただけ」

「言ってろよ。お前の借りた部屋の隣あいてるっていうし、会社近いし、急ぎだからあそこにしただけ、お前の友達じゃねぇの、来んなよ」
「はいはい、おっさん、すぐ怒るー」

俺に睨まれながらも、芽衣が動く気配は全くない。

俺はパソコンを打つ指先を早めた。
(こんな女に構ってられるか)

「……ねぇ」
「だまれ」
「お腹減った」

ちらりと時計を見ると昼の12時を回ったところだった。

俺が、ネクタイを緩めたのを見ると芽衣が、淡いブルーのワンピースを翻し、デスク前まで歩み寄った。

「イタリアン食べたい」
「めんどくせ」

俺が、パソコンを、閉じて立ち上がると半歩下がって芽衣が後から着いてきた。

エレベーターで1階まで降りた時だった。

向かいのエレベーターが、ちょうど開くと中から春樹が出てきた。

「冬馬」
「お、春樹」   

芽衣が、俺達の顔を交互に見た。

「この人が?」

春樹が、芽衣をちらりと見た。

「そ。頭取のお嬢さん、神谷芽衣」

「初めまして、神谷芽衣です」

しおらしく、春樹に軽く頭をさげる仕草は、やっぱり育ちの良さが出る。

「初めまして、松原春樹です。宜しくね」 

ふわりと笑った春樹を、見ながら芽衣が頬を赤くした。

「お前な、俺と随分態度違うな」
「……だって大人な感じで」 

だとよ、と俺が言うと春樹が、まいったなと笑った。

「今から飯?明香とイタリアン行くけど」
断ろうとした俺より先に芽衣が返事した。

「是非!」

くったくのない顔を見ながら俺はため息を一つ吐き出した。
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