オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
私の身体が、びくんと跳ねて、冬馬が、私から強引に体を離すと、立ち上がって振り返った。

扉から、慌てた様子の春樹が入ってくる。

「明香大丈夫か?」

駆け寄ると、私の頬に春樹がそっと触れた。

「うん、ごめんね」

「俺こそ、付いててやれなくてごめんな」

春樹の申し訳なさそうにする顔に、罪悪感が込み上げてくる。

「春樹、役員会は?」

冬馬が、スーツのジャケットを羽織る。

「出たよ、親父の機嫌損ねない程度にうまくやって早めに抜けてきた」

「検査結果は?」

振り返って、春樹が冬馬に聞いた。冬馬が未央から預かっていた血液検査のコピーを差し出した。

春樹は、検査結果に視線をながすと安堵した表情を浮かべた。

「ただの貧血。睡眠と栄養のあるもの食べてたら治るってさ」

「分かった、俺、早退届けだしてきたから、明香連れて帰るよ」

「あ、春樹、でも私午後の仕事……」

「もう連絡しといたから、安心して。俺の作った飯食べて、早めに寝ような」

春樹が、私を安心させるように優しく笑った。

「じゃあ、もうじき、点滴終わるから。春樹、あと頼んだわ。会計しとくし。ちなみに俺、今日から、あっち住むから飯いらねぇから」

思わず顔に出そうになった。

冬馬は今晩から芽衣さんのすぐ近くで過ごすんだ。

「良さそうなお嬢さんだな」 

「そうか?わがままなお嬢様だからな」

「ありがとな、冬馬」

冬馬は、春樹と視線を交わすと、ほとんど私の顔を見ずに部屋を後にした。

残り少なくなってきた、点滴袋を眺めながら、春樹が、私を抱きしめた。

「今日はごめんな……」

「え?……どうして春樹が謝るの?」

「食事に行く前から気づいてたのに、無理に食事に誘ったから、倒れる前に、連れて帰ってやれば良かったな」

「……春樹のせいじゃないよ、私が、自己管理できなかったから……」

春樹は、私の額に自身の額をコツンとあてた。

「俺には言いにくい?」
「え?」

「……いつも思ってた、俺には明香は、冬馬と違って、どこか遠慮してる気がして。冬馬の方がいつも明香の変化に気づくしな」

眉を下げて、困った顔をしている春樹に、申し訳なくなる。

「そんなことないよ……春樹はいつも私を大切にしてくれるのに、私、何にもできなくて……ごめんね」

私は、春樹の真っ直ぐ愛情に応えられるだろうか。春樹が大切なのは本当なのに、私の中の心は、すぐに冬馬を求めてしまう。

「明香が、居れば何にもいらない。側に居てくれるだけでいいから」

「私……親だっていないし、春樹の結婚相手でいいのかな」

さっきの未央さんの事が頭をよぎる。大病院の院長の娘が、春樹の相手なら申し分ない。

「……もしかして未央になんか言われた?」

思わず首を振った私を見て、春樹が笑った。

「嘘が下手だな。……明香しか欲しくない」

春樹の唇が私の唇にそっと重ねられる。

少しだけ乱暴な冬馬のキスと違って、春樹のキスは優しい。

「愛してる……何度言ったら信じてくれる?」

春樹は、スーツのポケットから、小さな箱を取り出した。

「手、出して。左手」

「春樹、あの……」

「明日食事行った時に、渡そうと思ってたけど、我慢できないや」

春樹は、私の手を取ると、ダイヤモンドがキラキラと光る、それを薬指に嵌めた。

「ぴったりだな」

子供みたいに笑う春樹に、いつのまにか私も微笑んでいた。

「どうして分かったの?」

「ベッドで明香が寝てから測った」

春樹が、私を起こさないように指輪のサイズを、測ってたのを想像して嬉しかった。

「やっと、笑ったな」
春樹が私を包み込んだ。 

「明香を一生大切にするから」
「春樹……」

春樹の背中に回した両手にぎゅっと力を込めた。

ーーーー私の心の全てを春樹にあげてしまいたくて。

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