オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「春樹、冬馬くるから」
少し抗議めいた口調で春樹に口をひらけば、頬に唇が振ってきた。
「は、るき、ちょっと」
「昨日あんなに激しくしたのに足らないな。今日も部屋来て」
春樹は綺麗な二重を細めながら、悪戯っぽく笑った。
以前忘れ物を届けた、会社では松原工業時期社長としてテキパキと指示を出しながら働く春樹しか見ていない私は、こういう春樹の子供みたいなところに、急に恥ずかしくなって、どうしていいかわからなくなる。
松原工業といえば、都心から離れたこの地方では誰もが知ってる大企業だ。わずか一代で、春樹と冬馬の父、松原幸之助が従業員5000人までの会社へと築き上げた。
「春樹、まだスウェットじゃん」
「美術講師の明香に何色のネクタイがいいか聞きたくて」
春樹の長い指先が私の白いシャツの襟から少し手を入れて、昨日つけられたばかりの赤い印をなぞる。
「春樹っ」
思わず冬馬の目玉焼きをプレートに乗せようとして落っことしそうになった。
「ごめん。可愛くて」
春樹は平然と、そんな事をいつも言う。
「明香お誕生日おめでとう」
「昨日も聞いたけど……ありがとう」
昨日のことを思い出して顔が熱い、多分真っ赤だ。
「ベッドの中でも言ったけど、今日も言いたい」
春樹は子供みたいににんまり笑った。