オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
俺は、芽衣の借りているマンションの駐車場に車を停めた。

明香と別れてから、明香の泣き顔が、頭から離れない。

抱きしめてやりたかった。

でも一度明香を知ってしまった俺は、触れたら最後抑えが効かなくなりそうだ。


『何処かしらないとこでさ、二人で』

篤の言葉が、不意に浮かぶ。

(家を出て正解だ、これ以上はお互いが耐えられないから)

暫く明香に会うのは、控えた方がよさそうだ。
会わずに距離をおいて、お互い冷静にならなければいけない。もう星は墜としたくない。


コンコンと車内の窓がたたかれる。

見れば頬を膨らませた芽衣が立っていた。
『お腹減った』のラインを返信してから1時間たっている。

ベランダから見てたんだろう。

俺は、ジャケット片手に、コンビニ袋を抱えて車の鍵をかけた。

芽衣の部屋に入ると、俺があらかじめ送って置いた荷物の段ボールが届いていた。

芽衣の部屋は、まだ段ボールがいくつか残っているが、生活に不便がない程度にはもう片付いていた。

「受け取りありがとな」 

「冬馬の荷物すくなっ、ってビックリしたけど」  

「最低限あればいいんだよ、芽衣もせっかくの念願の一人暮らしだろ?家帰りたくなかったら、早く俺よりいい条件の男探せよ」
 
「冬馬」
芽衣が、チャリンと、俺に家の鍵を投げた。

みると、形の違う鍵が二本付いている。

「何?これ?」

「お互い持っとこうよ、一応婚約者なんだし、念のため」

「女連れ込むけど?」

芽衣が、少しだけ頬を赤くして、目をきゅっと細めた。

「変態」

「健全って言ってほしいけど?」

「もういい!それより!お腹減った!」

「あ、悪かった」

手に持っていた紙袋を芽衣に渡す。

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