オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
「わぁ、オムライス」

紙袋を広げて無邪気に笑う顔は幼い。

テイクアウトできるオムライスの専門店で持ち帰ったものだ。

俺一人ならコンビニでも良かったが、芽衣が食べると思うと、さすがの俺も気が引けた。仮にも頭取のお嬢さんだ。

「ここのオムライス、食べて見たかったの」

芽衣が、俺の分と、さっとレンジであたためて、テーブルに、ビールと一緒に置いた。

「意外と気が効くんだな」
「お互いさまね」

鼻を高く持ち上げながら、芽衣が得意げに笑う。

美味しそうに頬張る姿は、小さい頃の明香を思い出す。

あっという間に食べ終わった芽衣は、冷蔵庫からアイスコーヒーを注いだ。

「冬馬は?」

「じゃあ、ブラックで」

「ふぅん。大人って感じ」

牛乳をたっぷり入れたアイスコーヒーを自分の前に置くと、俺の前にもグラスを置いた。

「ごめんな、一緒に家出るときついてやっていけなくて」

午後から、明香が倒れなければ、芽衣の自宅に一緒に、最後の荷物を取りに行く約束をしてた。

芽衣は自宅に帰ることが苦痛だから。

俺との婚約の話が持ち上がってすぐに、結婚する前に一人暮らしをしてみたいと、神谷滋に了承をもらい、自分名義で家借りたのだ。

ーーーー今の家を早く出たくて。

 「で?今日は家出るとき大丈夫だったか?」
「…………。」

「芽衣?」 

芽衣の顔から、笑顔が消えて、大粒の涙が転がった。

「…あの女から言われた、せいせいするって。正妻の子が、ずっと目障りだったからって」

「ごめん……」 

「冬馬のせいじゃない」

俺から見られないように、横を向いてから、芽衣は涙を拭った。

「……私こそ、ごめんね」
「え?」

「……パパから、冬馬との婚約の話が出たとき、愛人の子だって聞いて、私、それだけで、勝手に冬馬に、嫌悪感抱いてた。お母さんが死んで、愛人だった、あの女がパパの後妻になってから、私には家に居場所がなくなったから。
妹が産まれてからは特に……ごめんなさい」

泣いて赤くなった瞳を、俺に向けると、長い睫毛を、下に向けた。

「別に、芽衣が謝ることじゃない。俺は母親がしたことを正しいとは思ってないし、勝手に死んで、俺に愛人の子として、一生生きることを強いた母親に、それこそ嫌悪感しかないからな。芽衣が、俺に抱く感情は、むしろ当たり前じゃねぇの」

目尻を真っ赤にしながら、芽衣が俺を見た。

「やっぱり、冬馬っていい奴なのね」

「あんま信用しない方がいいと思うけどな、俺は」

意地悪く笑った俺を見て、芽衣もクスッと笑った。

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