オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
朝目覚めて、隣で眠る春樹を、私はしばらく眺めてた。

左手にはダイヤモンドのついた指輪が、光る。これから春樹との二人だけの生活が始まるんだ。

あんなに私を、愛してくれる春樹と結婚できるなんて、私は幸せ者だ。

春樹を、起こさないようにベッドから降りると、扉を開けた。ふと、渡り廊下の先の冬馬の部屋に視線を向ける。

毎日起こしに行っていた冬馬の部屋。

思わずドアノブを捻っていた。元々冬馬の部屋はモノが極端に少ない。

クローゼットは、空っぽになっている。あとは、一人用デスクと木製のチェスト、シングルベッドだけ。 布団も、毛布もそのままだ。

持っていったのは、仕事用のパソコンと洋服とスーツ位なんだろう。

ーーーー(あ……)

写真立てがなくなっている。私が春樹と冬馬の部屋に置いた、小さい頃雪だるまと撮った写真だ。

写真立ての置いてあった場所には、小さな封筒が置かれていた。

『明香へ』と書かれていて、慌てて私は封筒を開けた。

中は小さなメモ用紙が一枚だけ。一言だけ書いてあった。冬馬の手書きの手紙なんて、初めてかもしれない。

『俺がいなくても泣くな。春樹と明香の幸せだけを願ってる』

何度も目でなぞってるうちに、手紙の文字がぼやけて、手紙に水玉模様が、染み込んだ。

ーーーー手紙なんていらない。やっぱり冬馬に居て欲しい。冬馬のいない空っぽの部屋で涙が溢れる私は、どうしたらいいんだろう。

冬馬は、もう此処には戻ってこないのに、冬馬とタバコの混ざった部屋の匂いに、冬馬がそばにいるような気持ちになる。

会いたい……。冬馬の声がもう聞きたくてたまらなくなる。

神様は意地悪だ。乗り越えられる試練しか与えないなんて嘘。私には乗り越えられない試練ばっかりだ。

血を分けた冬馬に恋して、冬馬のぬくもりを、知った罰を、神様は、与えているのかもしれない。

朝陽を浴びて、キラキラと光る左手の指輪を眺めながら、私は涙を拭うと、手紙をポケットに、仕舞った。
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