オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
芽衣が、作った昼食のチャーハンを食べると、俺達は、車で郊外にある、外資系の倉庫型ディスカウントストアに来ていた。

「わぁ、初めて」

雑然と並んだ倉庫の大量の商品を、見渡しながら、目をキラキラさせる芽衣を横目に、俺は思わず笑った。

生粋のお嬢様だ、来たことないだろうとは思ったが、思ってた以上の反応に、単純に可愛いなと思った。

「ディスカウントストアが、そんなに珍しいのかよ?」

大きなカートを押す俺の前を、ご機嫌で歩きながら、片っ端から商品を、芽衣が、放り込んでいく。  

「おい、そんな大量のふりかけも海苔もいらねーからな、返してこい」

「やだ、食べてみたい!」

「ばーか、俺とお前2人ががりでも、何ヶ月かかんだよ!」 

「あ!一緒に食べようと思ってくれてるんだ」

「あんな……」 

あっ、と芽衣が、食品売り場を指差した。

「冬馬、早く!」
「こんなん食べ切れる訳ねぇだろ……」

最低でも1パック1キロ以上は優に入っている。とても二人で食べ切れる量ではない。

「このサーモンと、お肉買うー!見て、冬馬、クロワッサンもすっごく美味しそう。余ったら冷凍しとけばいいもんね」

芽衣は気にせずカートに入れていく。

「……絶対余るだろ」

「そうだ、これも欲しいんだった」 

芽衣は、嬉しそうにケタケタ笑って、俺を見ながら、追加でパスタと大量の洗剤をカートに入れた。

「美味しかったでしょ?私の手料理。今度はパスタ作るから、これも買ってよ」

「何回分だよ……」 

「この洗剤も安いね!こんなに入ってるのに」

「でも使いきれないだろ?」

「冬馬の洗濯物も一緒に洗ってあげるから、もうっ!つべこべいわずに全部買って!」

頬を膨らませて、芽衣が拗ねる。

「あ!バスタオル冬馬ん()、一枚しかないじゃん」

「俺一人だから、一枚あればいいんだけど?」

「私のがないじゃん」

「あんな、家隣だろ?風呂くらい自分()で入れよ」
芽衣が、拗ねた目で俺をみる。

「なんだよ」
「一人が嫌なのっ」

俺は小さくため息を吐いた。家を出たら出たで、芽衣は、一人暮らしが寂しいんだろう。

それは、俺も同じかもしれないけれど。

「どれ?何色?」

色を聞いた俺に、芽衣の顔がパッと明るくなる。

「あ、それ、グレーと白2枚ずつ」

背の低い芽衣の代わりに、山積みにしてあるバスタオルを、俺はカゴに入れた。

「なんか新婚さんみたいだね、明日からお料理もお洗濯もがんばるね」

芽衣が胸をたたいて見せた。

「別に……婚約者のフリだけでお前は、別に俺にそこまでしなくても」

「暇だから、結婚ごっこに付き合ってあげる」

「結婚ごっこね……」

食品と日用品で、すっかり山積みになったカートを押しながら、レジに向かう時だった。

ふと、芽衣の視線が止まる。
視線の先には、色とりどりのマグカップが並んでいた。

「何?マグカップ?」

「うん、家にグラスしかなかったなぁって」

「入れれば?」

芽衣は、少し考え込むように宙をみた。

「でもグラスあるしな、勿体無いからいいや。もう沢山冬馬に買ってもらったし」

俺は、マグカップの陳列された通路を後にしようとする、芽衣の腕を掴んだ。

「買ってやるよ、何色?」

「え?」

「飯のお礼……って、一つ480円の安物だけど?」

唇を持ち上げた俺を見上げながら、芽衣が嬉しそうに笑った。

「じゃあ、黄色。元気でる色でしょ?」
「芽衣にぴったりだな」

芽衣が、ブラウンのマグカップもカートに一緒に入れる。

「お揃いにしよ?」
大きな二重瞼が、俺を見上げた。

「いいけど、何でその色?」

芽衣は少しだけ黙って、俺から視線を逸らした。

「……冬馬の瞳とおんなじ色だから」

ふっと笑った俺を、笑わないで、と恥ずかしそうに芽衣が肘で突いた。

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