オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
明香と、あのあと、一緒にお風呂に入って、少し冷めたハンバーグを二人で食べ終わると、明香は疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。

俺の隣で、安心したように眠る明香を見ながら、俺は月明かりの下で、赤く内出血した、右の掌を眺めていた。

冬馬に、あんな風に怒鳴ったのも、殴ったのも、俺は初めてだった。

5歳の時から、一緒に暮らしてるが、記憶にないくらい兄弟喧嘩なんてしたことがなかった。

冬馬は、大事なことに限って、言葉に出さないヤツだ。すぐに心に蓋をして、我慢をする。愛人の子としてレッテルを貼られて育ったからかもしれないが、本音を言わない冬馬を、俺はいつも気にかけていた。

本妻の子である俺に、遠慮なんかしないように。

母親が、誰かなんてどうでも良くて、本当の兄弟として、接して欲しかったから。

「……泣いてたな……」

冬馬の涙を見たのは、勿論初めてだった。

いつから、明香に想いを、寄せていたのだろうか。きっと、物心ついた頃からだろう。

互いにそんな誰にも言えない想いを抱えながら、俺と暮らして、二人はどんな気持ちだったんだろうか。

冬馬は、俺が明香と付き合い、一緒に暮らしながら、明香を俺が何度も抱くたびに、どんなことを思いながら、一人で夜を過ごしていたんだろうか。

「俺は……兄貴失格だな……」

自分のことばかりで、結局、兄だといい、兄だと振る舞いながらも、弟のことも妹のことも分かってなかったのだから。

もっと、冬馬のことを、ちゃんと見てやれば良かった。

何故、本音を言わないのか。特定の女が居ないのか、適当な恋愛しかしないのか。


ーーーー全部違ったのに。

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