オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
明香を、愛してるから、特定の女は、必要なかったし興味がなかったんだ。

愛する明香しか、冬馬は要らないのだから。

でも、それは、禁忌を犯すことだ。半分とはいえ、冬馬と明香は同じ血が流れている。

だから、誰にも言えない。言えなかったんだ。長年一緒に暮らしてきた俺にも。俺も明香を愛していたから。

冬馬は、自分の気持ちに蓋をして、俺に明香を託すしかなかったんだ。

『明香を幸せにしてやってくれよ……』

苦しそうに泣きながら、言葉を吐き出した冬馬の顔が、脳裏に浮かぶ。

俺は、小さくため息を吐き出すと、ベッドから起き上がった。

明香は、静かな寝息を立てながら、こちらを向いて規則的な呼吸音を、繰り返している。俺は、このまま、明香と結婚してもいいんだろうか。明香は、ツラくないだろうか。

ふと、明香との結婚の為にと、ある人物について調査を依頼し、その調査結果が送られてきていたのを思い出す。

すっかり忘れていた。
俺は暗闇の中、デスクの上の卓上ライトを点けてパソコンを開く。内容に目を通しながら、メモを取ろうと、鞄に手を伸ばした。取り出した手帳と共に、はらりと一枚の紙が落ちる。

拾い上げたのは、明香の血液検査の結果の、コピーだ。

何気なく、卓上ライトの下で、それを眺める。

明香の血液の中には、冬馬と同じ細胞が、存在する。



「え?」

思わず俺は声を出していた。


患者名、生年月日をもう一度確認する。
平山明香、誕生日も間違いない。

しかし、ただ一点だけ違う。


ーーーー俺の知ってる明香と。
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