もうダメだった。
1.だからどうか別れてほしい






明かりが灯されていない薄暗い部屋の光源は私の手の中に収まるこのスマホだけ。

私はその光源であるスマホをただじっとベッドの上で眺めていた。


スマホ越しに毎日彼を見ていた。
SNSに現れる彼は高校を卒業したほんの数ヶ月前とはまるで別人のように明るい笑顔でたくさんの人に囲まれている。

そのたくさんの人の中にはもちろん女の子もいた。
しかも東京の女の子だけあってみんな美人。


そんなスマホ越しに眺めている彼の名前は結衣ーユイー。
高校2年生の冬に私から告白してそこから約1年半付き合っている、今は遠距離の私の大好きな彼氏だ。


私はずっと結衣が好きだった。


結衣は高身長でスタイル抜群なだけではなく、顔も端正で、まるで人形のような完璧な見た目だ。
東京でこんな風に美人に囲まれる人気者になってしまっても仕方がない。


だが、しかし、高校時代はそんな完璧で美しい結衣を知っていたのは私だけで、学校の誰も結衣の本当の姿を知らなかった。

結衣は人と関わることが苦手で、人と距離を取りたがる。
だから顔を見られないように髪は長かったし、マスクをしていることが多かった。
ぱっと見スタイルがいいことはわかっても、素顔まではわからない。

私だけが知っていた。
私が結衣の唯一の特別だったから。私しか知らない大事な秘密だったのに。

今ではSNSを通して世界中が結衣の完璧な見た目を知ってしまっている。

それがどれほど私を複雑な思いにさせてきたか。
特別を奪われてしまった。
私の大事な特別を。




それでも私は結衣の完璧な見た目に恋したのではない。
最初は私も他の人と同じように結衣から距離を取られていた。
だからもちろん結衣の完璧で美しい見た目なんて知らなかった。


それでも私は結衣に恋をしてしまった。

きっかけは結衣が私の隣の席になったこと。

高校1年生の夏、人付き合いが苦手な結衣の他の人とは違う距離感に私はどこか心地よさを感じていた。

当時はまさか距離を取りたがられているとは夢にも思わなかったが、近すぎない結衣の距離感を心地よく感じ、これをきっかけに私は結衣のことを意識し始めた。

たくさん話しかけて、少しでもこの不思議で警戒心の強い結衣のことを知ろうと思った。
もうその時点で好きになっていたのだと思う。

少しずつ態度が軟化していく結衣を見て胸が高鳴った。


そして高校2年生の冬、私はついに結衣に告白をした。
結衣は快く私の想いに応えてくれた。

付き合うようになってから結衣は私に素顔を見せるようになった。
初めて結衣の素顔をちゃんと見た時、その美しさに度肝を抜かれたことを今も鮮明に覚えている。


それから高校を卒業するまで私は本当に幸せだった。








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