もうダメだった。
とにかく結衣のファンは超過激なのだ。
そんなファンに変な誤解をされたら次のターゲットは私になるのは確実で…
そこまで考えてあることに気づいてしまった。
さっきの一連の勘違いされそうなやり取りを綾音がしっかり見ていたことを。
綾音も立派な結衣ファンだ。
もし、綾音が超過激結衣ファンだったのなら私の人生は詰んだも同然なのでは…
「莉子?」
固まったまま黙り込んでしまった私を見て、結衣は心配そうに私の名前を呼んだ。
「ごめん。俺、莉子に本当に会いたくて嬉しくて何も考えられてなかった。…嫌いになった?」
「…嫌いになってはない」
「よかったぁ」
不安そうに見つめられるものだからつい安心させようと目を逸らしながらも「嫌い」を否定すると、結衣は目に見えて安堵していた。
本当にこの男はずるい。
私が結衣を嫌うわけないのに。
「とにかく私とアナタはお客様とスタッフ。赤の他人。ここは絶対に間違えないように。わかった?」
「もちろん」
緩んでしまった気を引き締めて強い口調で結衣に言い聞かせると結衣から一瞬だけ表情が抜け落ちた。
何の感情も感じさせない、そんな顔。
だけどそれは一瞬で結衣はすぐに笑顔に戻った。
「久しぶりだしさ、よかったらこの部屋で一緒にディナーでも食べない?」
「…ご注文は」
「莉子にお任せするよ」
結衣の言葉を聞くと私はすぐに業務用のスマホから
キッチンの方へと電話を繋げた。
「料理長おすすめのフルコースを〇〇〇室にお願いします。1名様です」
そして結衣のディナーの手配をいつもの業務通りにした。