もうダメだった。





「…つれないな」

「仕事中ですから」



不満そうに私を見て笑っている結衣に私は冷たい態度で返事をする。

少しでも結衣に隙を見せると結衣の思惑通りになりそうだったので、こちらが主導権を握れるようにした。

もう結衣の言葉に耳を傾けるものか。



「じゃあ仕事以外では?明後日とか夜勤明けで休みでしょ?」

「何でそれを…」

「さぁ?で、明後日は休みみたいだし、ちょっと俺と話さない?久しぶりだし」
  


結衣とは思えないどこか仄暗い笑みを浮かべる結衣に私は冷や汗をかく。

主導権を握っているつもりが逆に握られてしまった状態になっている。


このままではいいことにはならない。
絶対に結衣のペースで話を進められる。



「明後日は予定があるから無理。それじゃあ、ごゆっくり」



今の状況に危機感を覚えた私は結衣には返事をせず、さっさと結衣の客室から出ることにした。



「やっと見つけたのに逃げられるとでも思っているのかな…。かわいいなぁ」



結衣が1人部屋でつぶやいた言葉は誰に届くこともなく、静かに結衣の客室に消えていった。






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