もうダメだった。
「や、やざじいぃ…、わだじ、りござんのごども、だいずぎなんでずぅ」
フロントから離れてとりあえずスタッフルームに着くと綾音は泣きながらそう言った。
私はそんな綾音をソファに座らせると、何とか落ち着くようにコーヒーを入れて綾音に渡した。
暖かい飲み物をゆっくり飲めば少しは落ち着けるはずだ。
綾音は私の思惑通りに、コーヒーを少しずつ飲みながら、徐々に落ち着きを取り戻していった。
「驚かせてごめんね。神崎くんとはそう言う関係ではないの」
「神崎くん?」
綾音が落ち着いた頃合いを見て私は綾音に結衣との関係を話し始めた。
本当は〝神崎くん〟なんて呼んでいないがここはあえてそう呼ばせてもらう。
「神崎くんとは同じ高校でクラスが一緒だったから結構仲良かったの。それで神崎くんあんな感じの態度だったんだと思う。でも高校以来連絡も取り合ったことないし、私もびっくりしているくらいで…」
そこまで言って綾音のことを見ると綾音は「なるほど」と考え込んでいた。
私からもらった新たな情報を整理しているのだろう。
彼氏であったことを伏せているだけで本当のことを言っているので疑われはしないはずだ。
「結衣くんと同じ高校とか前世にどんな善行をしてきたんですか?最高の人生じゃないですか。しかも同じ学年同じクラス仲までいいなんて…。だから結衣くんに全然興味なかったんですね」
1人でしっかり納得したようで綾音はやっとスッキリした表情になった。
よかった…。
何とか誤解が解けた…。
あとはこの話を私と綾音でたくさん広げまくればここのスタッフたちの誤解も解けるだろう。
「とにかく神崎くんは何故かあんな感じだけどこのままだと綾音みたいに誤解してしまう人が増えるでしょ?そうなれば…」
「結衣くんの芸能活動に響くし、何より莉子さんの身が危ないです」
「そう」
さすが綾音、言わなくてもよくわかっている。
私が言おうとしていたことを真顔で瞬時に把握して言ってくれた。
「だからまずは私と綾音でスタッフたちの誤解を解くことと、今、神崎くんの担当が私になっているからここを誰かに代わってもらってさらに誤解を招く事態を止めないといけない」
そこまで私が言い切ると綾音は真剣な表情で頷いた。